Bitter Sweet
「ズルくてもいいのに。」

昂くんは呟くけど、私はまた頭を横に振った。

「駄目。そんなの自分が許せない。」

キッと昂くんを睨んだ後、
私は目尻を緩めた。

「昂くん。私ね、もう高梨に逃げられてるんだよ。だからって、昂くんといるのはやっぱり良くないと思うから。」

「…融通効かないな。」

半ば呆れたように言うけど、
その瞳はひどく、温かくて。
まるで家族みたいに、包み込んでくれるような…。

「じゃあ、先輩として一言。お前、自分の気持ちアイツに伝えた?」

「…ううん。」

今更、言えなくて。
高梨は私から離れてしまったのに。

「やっぱりな。好きなら、ちゃんと追いかけてみろよ。手に入るもんも逃しちゃうぞ?」

それってどういう…?

聞こうとして、昂くんを見ると口の両端を上げて私を見据えていた。寂しそうな瞳で…。

「俺が言えるのはそこまで。話は終わりだ。」

昂くんは私の両肩に置いていた手を降ろし、スッと立ち上がって、ツリーの方角を眺める。

「今日、お前と過ごせて良かった。忘れるにはまた時間かかるかもしれないけど、きっと前には進める気がする。」

昂くんの背中越しに聴こえたその言葉は、強がりとかじゃない、本心なのが伝わってくる。
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