Bitter Sweet
私もベンチから立ち上がって、
背を向けてる昂くんのコートの裾をギュッと掴んだ。


「私もだよ。昂くんと再会出来て、苦しかったけど嬉しくもあった。…ありがとう。」

最後の"ありがとう"の語尾が掠れて、震えてしまった。
瞳に涙がいっぱい溜まってしまっていたから。


ふいに昂くんが振り向いて、ふわりと、私を抱き締める。

ー昂くんの、ニオイ。
昔と違って、少しだけ煙草の混じった…。

「会社で避けるなよ俺の事。」

「うん…。」

「大好きだよ、ひかり。」

「うん…。」

昂くんの想いが伝わってきて、みるみる瞳から雫が零れ落ちる。

この優しく大きな手を、
穏やかに微笑む至上の笑顔を、
私はきっと忘れない。

本当に。

「大好き、だったよ。」

それだけは最後に伝えておきたくて、涙声を振り絞った。

見上げると、間近にある昂くんの大人びた瞳から。

涙が滲んでいるのが見えて。

ますます離れるのが辛かったけれど。

それを振り切るように、私は…。

踵を上げて、昂くんの頬に手を添えて。

ーゆっくりと口づけた。

昂くんが驚いて目を見開くのを感じ取る。

それと同時に、私は唇を離して一呼吸置き、無理矢理笑顔を作った。

「ーさよなら、昂くん。」

身動きできずにいる昂くんの腕から抜け出て、お別れを告げる。

昂くんは何か言いたそうな顔をしていたけど、頭を振って、コートのポケットに片手を突っ込んだ。

そして、空いてる方の手をヒラヒラ振りながら、

「あぁ。じゃあな。」

そう言って踵を返し、ツリーのある方角へ歩いて行く。

一度も振り返らず。

彼が街の喧騒に姿を消したのをただただ、じっと見つめて私は佇んだー。


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