Bitter Sweet
ふぅ、と軽く息を吐いて、俺は続けて答えた。

「でも、俺も…そう簡単には譲れないって思ってる人がいるよ。」

譲るも何も、彼女は俺のものではないけど。

気持ちの上では、誰にも渡したくない、そう思っているから、ありのままをぶつけた。


「…そうですか。」

そう言って、少し挑戦的な瞳を向けながらも口角が上がるのを見逃さなかった。

それを見て、ふっと笑いが洩れる。


「楽しそうだな。余裕あるじゃん。」

「まさか。余裕なんて全くないですよ。ただ…少し嬉しかっただけで。」

「嬉しい?」

思わず首を傾げて訊き返す。

「有田さんの本音を見せてもらえたから。」

高梨はヘラッと笑いながら、また歩き始めた。


……。

面食らった俺は何も言えず、高梨の後を少し遅れて歩き出した。


そして。

ふいに後ろを振り返った高梨が言い放つ。

「オレ、足掻きますから。負けないように。」

誰のことかなんて、一言も口にしていないのに、

互いに解っていた。


「俺も負けないように頑張らせてもらうよ。」

高梨のストレートさに、苦笑いを浮かべながら答えた。

高梨は妙に満足気な顔をしていて、


俺もつられて、妙に晴れ晴れとした気分になった。



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