Bitter Sweet
「うん。…あ、でも。」
思い出したかのように、私の頬を片手の平で包み込み、

「何もなかった、とは言わないよ。」
「…え?」
頬に高梨の温かい手を感じ、恥ずかしくなって顔が熱くなってくる。

「ひかりさん、可愛くて、ついしちゃったんだよ。」
包んだ手の親指で頬をぷにぷにつつきながら、

「キス。」


…と、耳元で囁かれた。


「…っ、な、んで…。」

驚いて言葉がうまく出てこない。

今、耳まで真っ赤になってる気がする。
顔中が熱い。

「だって、あんまりにも無防備に人に抱きついてくるし、可愛くてムカついて。」

…抱きついた?私が?
しかも、ムカついてって。

もう。
何なの…。

「でも、キスだけでやめたんだから褒めてほしいくらいだねー。
することしてても文句言えないよ?おねーさん。」

うっ…。確かに。

いくら高梨だって、男なんだ。

ていうか、この部屋に来たがってる女は掃いて捨てるほどいる。


「本当にスミマセンデシタ…。…これ、ごちそーさま。…帰るね。」

立ち直れないかも、と落ち込んでヨロヨロした足でお椀をキッチンに持っていこうとすると、
腕を掴まれる。

「…、なに?」

「今日、なんかあるの?」

「え…いや、溜まった家事とかやっつけようかとは思ってるけど…。」

「んじゃ、夕方そっち行っていい?」

…へ?
なんで?
思わず目が点になる。

「昨夜のお詫び、モチロンしてくれるんでしょ?」
ニンマリ笑って言ってるけど、
これは、どこかで見たことある…
有無を言わせない、顔。

「…分かった。確かに、このままじゃ申し訳なくて、高梨に顔向けできないしね。」

はぁ~、とうなだれつつ、
抵抗する気にもなれなくて、高梨の要求を受け入れた。




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