Bitter Sweet
「…ごめん、コレか。昨日の深酒の原因。」
高梨が、しまった、という顔をして私を見る。



「はは、情けないよねー…。もう10年経ってる相手に、揺さぶられて。」
あは、と無理矢理笑顔を作る。

でも、本音だった。
こんなの、私らしくない。
昔の恋に振り回されるなんて。


「…忘れられない相手なんだな。」

静かに高梨が言う。


…忘れられない…。
その言葉はやけに響いて聴こえた。

「…。」
答えられない代わりに、
胸の奥がギュッと締め付けられて。

涙がポロッと、頬を伝った。


「…やだ、どーしたんだろ。ごめん。」

慌てて、気持ちを立て直そうと高梨に背を向ける。

なんで、涙なんか。

指で涙を拭うと、
ふいに後ろからキュッと温かい腕で包み込まれた。


「た…か な し?」

思わずフリーズして、腕を払いのけるのも忘れていた。

「ムリに笑うなよ…。オレは…ひかりさんの、ホントの顔が見たいのに。」

高梨の、抱きしめる腕に力がこもる。

いつもの、軽い調子の高梨じゃ、ない。


その声は、少し掠れていて。
抱きしめられてる背中越しに、高梨の鼓動が響く。





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