Bitter Sweet
それからどれ位の時間が経っただろう。

手を握ったまま、私達2人の事とは関係のない、会社の話をポツリポツリ、していた。


「さて、そろそろ帰ろうか。俺、このままだとまた余計なこと言いそうだし。」


苦笑いを浮かべながら、ようやく手を離して、よっし、と腰を上げて、寝ている峰さんに声をかける。


余計なことって何?
…なんて、そんな一言が気になってしまうけど。
追及はしない。



「あ~あ、本当起きないわ。ダメだな。タクシーに乗せてみんなで帰ろう。」


じゃあお会計を、と思って伝票を取り、店員さんを呼ぶ。

すると、私の手からスッと伝票を抜き去り、昂くんは言った。

「いいよ。今日は俺が奢る。」

「え。でも、結構飲んだし、悪いよ。払うって。」

「峰さんの言葉通りなのはシャクだけど、ホントにいいから。」

そういえば、峰さんが冗談でそんな事言ってたっけ。

いや、でも。
と、言いかけて、昂くんの手がそれを制す。

「なんか…うん。つまんない話聞かせちゃったお詫びって事で。な?」

私を宥めるように、頭にポン、と手を置いて言われる。


頬が熱くなってくる。


私、昂くんの、コレが好きだった。

愛情のこもった、"ポン"が、あの頃の私をどれだけ安心させてくれてたか。

彼は分かっているのか、いないのか。


そんな思いを堪えて私は小さく、
「じゃあ、お言葉に甘えて。ご馳走様です。」
と言って深く礼をした。



そして、会計を済ませてタクシーを呼んでもらい、ホテルまで帰っていった。








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