Bitter Sweet
ホテルへ着くと、峰さんを担いだ昂くんは、

「じゃあ…、俺、峰さん部屋に連れてくわ。」
と、エレベーターのボタンを押す。

心なしか、名残惜しそうにも見える。

「うん。大丈夫?手伝おうか?」

「いいよ。力仕事だしな。」
ハハッと笑って肩から落ちて来そうな峰さんを支え直す。


エレベーターが来て、乗り込むと部屋がある5階のボタンを押した。

話すことが見つからなくて、2人とも無言だ。


そしてあっという間に5階に着き、エレベーターの扉が開く。


フロアは同じだけど、部屋は反対方向だった。

「じゃあ、…おやすみなさい。お疲れ様でした。」

「あぁ。お疲れ。…また明日な。」

優しい笑みを浮かべて、おやすみ、と部屋の方向へ足を向ける。
その背中を少しだけ見送って、私も自分の部屋へと帰った。


私も昂くんも、かなり飲んでいた。

ふらつく足取りのまま、すぐシャワーへ向かった。

温かいシャワーを浴びながら、グルグルとさっきまでの事を思い出してしまう。


握られた、手。

自分の掌をじっと見た。


昂くんは、昔の私に懺悔するように、ギュッと強く握りしめてた気がした。



セピア色になりつつあった、私達の恋。



再会したことで、またその色を取り戻してしまったように思えた。



ー私だけじゃなく。昂くんも。


キュッと、シャワーを止めて自分で自分を抱くようにしてしゃがみ込む。


ー…っふ。

涙がとめどなく溢れてくる。

もう一度、シャワーを勢いよく出して頭から浴びた。

後から後から流れでる涙を打ち消すように。

どうしても思い出してしまう、
昔の私と昂くんのあったかい時間を、
かき消すように。


シャワーと一緒に全部流れちゃえばいい。




ー涙が止まるまで、私はそうしていた。



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