Bitter Sweet
夜7時。
10月後半にもなってくると、夜はうすら寒い。

高梨の部屋の前に着き、インターホンを鳴らす。

すると、すぐにドアは開いて高梨が顔を出す。

「お疲れ!」
にこやかに出迎える高梨とは対象的に、私はちょっぴり不機嫌顔を浮かべた。

「お疲れ。来てやったわよ、強引なお誘いに。」

はい、お土産、と言ってワインを手渡しながら中へ入った。
何か作ってたみたいで、いい香りがする。

「あーでも言わないと、来てくれないじゃん、ひかりさん。」

ワインを見て、やった~、と目を細めて喜びながらそう言ってくる。

「なんか今日にこだわった誘いだよね。なんで? せめて日にちズラしてくれれば素直に応じられたのに。」

座ってなよ、とソファを顎で指してきたので腰をかけた。

「それはね、オレがひかりさんの疲れを癒してやりたかったから。」

え。

キョトンと高梨の方を見ると、

キッチンから色々運んできた。

見ると、ピザやパスタにサラダ、
シーフードのソテーなど、
お酒のつまみにちょうどいい料理が次々出てくる。
私の好きなイタリアン系。


「ど、どうしたの!?作ってくれたわけ!?」

驚いて目を見開いてテーブルを眺めてしまった。

「まぁ。簡単なのばっかだし、ピザは流石に冷凍モンだけど。」

ワイングラスを二つ持って、私の隣に腰掛ける。

男の人にこうして労いのために料理してもらうなんて初めてかも。
とはいえ。

「高梨って料理出来るんだね…。何か、何でも出来る男って感じでかわいくないわー。」

「何だよそれ。ここはフツー、“すごーい!ありがとー!”とか言って喜ぶとこじゃねーの?」

ムッとしながらワイングラスを私の目の前に差し出す。

「はは、ごめん。そうだよね。ありがとー、高梨。嬉しいよ?」

取ってつけたみたいな言葉に聴こえたかもしれないけど、
嬉しいのはホントだった。
素直に喜べないのはなんでかな。高梨相手だと、つい憎まれ口を叩きたくなってしまう。

「ホントに?」

私の顔を覗き込んでくる。
端正な顔が突然至近距離に現れて、あまりの近さに思わず腰を引いてしまった。
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