Bitter Sweet
「それが分かって、泣いたんだ?」

刺すような視線で見つめてくる。

「…泣いてないって。」

咄嗟に否定したけど、高梨からは大きな溜息が漏れる。

「ほんと素直じゃないんだから。絶対泣いた顔だっつーの。」

高梨は、もはや呆れて何も言いたくない風の顔をしている。

「…だって。泣いたなんてカッコ悪いじゃん…。」

シャワーに全部流してもらおうとした昨晩がまた、蘇る。


「泣くなら、1人で泣くなよ…。泣く時は、俺の前で泣いて?今度から。」

私の頭の上にポン、と手を置いて慰めるようにそのまま撫でられる。

「…っ!」

思わず高梨を見つめた。

胸の奥が、キュンとなった。

本当は、1人で泣くのは寂しかった。
泣いた後、淋しくて仕方がない。
ものすごい孤独を感じる。

その孤独感を分かってて、
高梨は言うんだ。


私の、“泣き場所” になってやるって。


ーー私には甘い、甘い毒。


だって、

泣ける場所なんて、なかった。


しばらく彼氏はいないし、
いた時だって、その人の前で感情に任せて泣いたりなんて出来なかった。


そりゃ、一緒に泣いてくれる友達はいる。

でも、同性と異性じゃ、ちょっと違う。

同性の友達と居たい時と、

異性と居たい時は、別だから。


ー今の私は。

淋しさを、切なさを、

埋めてくれる人が欲しかった。

でもそんなの、自分勝手で、
ズルいなって思っていた。


なのに。

高梨は分かってて、
そのズルさごと、私を包み込もうとする。








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