プラトニック・プラネット
***
あれから数日後。
サボさんはすっかり、2年2組のアイドルと化している。
「おはよーサボさん」
「今日も元気いっぱいだねえ」
高校の教室。でかいサボテンの前で騒ぐ女子。
それが日常風景となりつつあるこの頃。
なにかおかしい、と感じる人はもはや皆無である。
「和泉さん、おはよう」
「あ、おはよ風間くん」
「サボさんもおはよう」
トゲだらけのワイルドなサボさんの肌を、指先でそっと撫でる風間くん。
その愛おしげな手つきと視線に、胸のあたりでなにかがもやっとして。
なんとなく。
ほんとうになんとなく、だけど。
こっちを向いてくれないかな、なんて思っていると。
「世間って風当り厳しいっていうじゃない」
不意に、風間くんが振り向いた。
「……そうだね。どうしたの急に」
「しかも汚くて冷たくて、大切なものを見失うくらい毎日が忙しくてさ」
「………」
「それでも、こんなトゲだらけになってまで守りたいものが―――きっと、あったんだろうね」
「……」
「……」
「……風間くん」
「なに」
「それはサボさんの話?」
「そうだけど」
「……」
「……」
「…………やっぱ森に帰してきなさい」
「え、なんで。やだよ」
***
「3.サボテン騒動」end.