プラトニック・プラネット
和泉さんは、俺の手をすくい取って、自分の左胸に押し当てた。
固い制服のシャツ越しに伝わる、柔らかい感触。
一瞬、何が起きたか全く分からなかった。
理解したときには、なんで?とどうしよう?ばかり浮かんで、
どうすることもできない俺は、ただ体を強張らせた。
手のひらから伝わる感触が、じわりじわりと冷静さを奪いとって、頭の中から言葉や理性が消えていく。
「...えっ、ちょ、和泉さん?」
「分かる?」
動揺する俺とは反対に、彼女は少し視線を落としただけで、ハッキリとした声で続ける。
「心臓、すごいドキドキしてるでしょ?」
「ん......」
熱い、熱い...。
顔が、耳が、体が。
熱くて、たまらない。
目の前が白く霞んで、
彼女の声がフェードアウトしていく...。
「なんとも思ってない人にーー」
「風間くんだからーー」
いずみさん......。
手、離して.........。
モヤのかかった視界で、最後に捉えたのは、頬を赤く染めた和泉さんの姿。
プツリ、と音がして、視界が白と赤でチカチカしたと思ったら、背中に強い衝撃。
「か、風間くーん!!」
......さい、あくだ...。
***
「ぶわっはっはっは!!!
だっせぇぇえーー!!」
「......」
どうやって告白したんだよ、と賢人が興味ありげに聞きやがるから、ありのままに話してやったら、これだ。
まあ、分かってるけど。
情けなかったって、分かってるけど。
「いててててててて!!
なっ、ちょ、やめっ」
「あ、悪い。うっかり」
「うっかりでコブラツイストやるやつが
どこにいんだよ!!」
「ここにいんだよ」
「開き直った!」
ギャンギャンうるさい賢人は放っておいて、苺ミルクをストローで啜る。
...うん、やっぱ、甘い。
「お前、すぐ手が出るのはよくねぇぞ。
ーーって、あれ?甘いの好きだっけ」
「...別に」
「そーいえばそれ、よく和泉がいたたた!
なに!?なんで!?」
「...うるさい」
「理不尽!」
泣き真似をする賢人の肩越しに、廊下を通る彼女の姿が見えた気がして、飲みかけのパックを持って急いで教室を出た。
呼び止める賢人の声なんて聞こえなくて、騒がしい廊下の中、揺れる黒髪を見つけ出す。
窓の外を見上げながら歩く背中に確信して、後ろから名前を呼ぶと、彼女は驚いた顔で振り返る。
「...あ......風間、くん」
ちょっと上ずった声に、緩む唇を片手で隠しながら、持っていた紙パックを差し出した。
「飲みかけで悪いんだけど...。
良かったら、飲まない?」
***
「5.鮮血に染まる思い出 ー風間ー」end.