プラトニック・プラネット


しばらく深呼吸をし、頬のほてりが収まったところで、忘れかけていた板書を急ぐ。



えっと...あそこまで書いたから......。




「じゃ、こっち消すなー」




ああっ!


ちょうど書こうとしていたところを、躊躇なく消し去られる。



「さっきの、大事な定理だから、
しっかり復習しとけよ」




じゃあさっさと消さないでくださいよ!



心の中でそう叫んでも、もう遅い。


...そりゃあ、風間くんに夢中になってた自分が悪いんだけど......。




はああ、と深くため息をつき、書き写せるところだけ書いてしまおうとペンを手に取る。



視界の大半を占める彼の背中は、当たり前だけど、なに一つ変わってなくて。



ーー私ばっかり。


こんなにモヤモヤドキドキして。

板書を忘れるくらい夢中になって。



私に見られて緊張するとか言ってたくせに、全然変わらないなんて。


なんか、なんか...自分勝手だけど、ちょっと、腹立つ。



風間くんも、同じくらい緊張すればいいのに。

同じくらい、私のことで心を乱せばいいのに。



ほんとに、自分勝手な考えだと分かっているけれど。


自分ばかり乱されるのは、悔しくて、ちょっぴり切ないから。




シャーペンをノートに走らせつつ、背中に念を飛ばしてみる。



振り向け、振り向け。

こっち、向け。



「じゃあ次の問題の1を...吉橋」



また、クラスメイトが立ち上がり、黒板に向かっていく。


それを見送る風間くん。




その視線が、こちらを向かないかと。

目の端で、こっそり私を見ているんじゃないかと。


勝手に、期待してしまう。




こっち、向け。

こっち、向いてよ。







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