甘い香りを待ち侘びて


「あ、もしかしてエリ先生って、今もサンタさんを待ってるタイプですか?」


 羨ましい、の言葉に何を勘違いをしたのか、そんなことを尋ねられる。

 いい歳をした女が、さすがにサンタさんが来ることを真面目に夢見るわけがないでしょう?

 そう返そうと思ったけれどわたしの回答を待っているマコちゃんの表情はまさに子供と同じだったので、さすがに少しだけ躊躇った。……うん、夢は壊しちゃいけない。


「待ってても、もうわたしのところには来ないよ」



 ――サンタさんよりも待ち侘びている彼氏さえ来てくれない。

 それが、今年のクリスマスの現状なの。



「そうですかー。でもエリ先生には、パティシエの彼氏さんがケーキを持って来てくれますもんね!」


 嬉々とした表情で彼女が笑う。でもすぐにツリーに目を向けたので、わたしの情けない表情など目にしなかっただろう。

 嫌でも思い出してしまう今朝のメール。今日は、会えない。会えなくなってしまった。

 ヒロくんの申し訳なさそうに謝る姿と甘い香りを引き連れてやって来る理想が、交互に浮かんでは儚く冷気の中に散った。


 ……仕方のないことだと分かってる。

 ヒロくんはこの町にある個人経営のケーキ屋さんで働く、立派なパティシエだ。今はお父さんが仕切って経営しているお店を、いずれは2代目となって継ぐ人。


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