婚恋

建前と本音は・・・・

「ちょ・・ちょっとこれ・・・どういうこと・・なのかな?」
藤田さんは目を見開き状況を把握できないでいた。
そりゃそうだ。
だって本来ならば陸の横には百恵さんがいるはずなのだから・・・
私はバツの悪さで藤田さんと目を合わすのを避け白いテーブルをガン見
そんな緊張と驚きの張りつめた空気の中
ただ一人能天気な男がその空気を壊した。
「顔違いますが、百恵なんでよろしく。」
「はい?」
素になった藤田の声が響いた。
「だーかーら~。百恵とは別れたんです。でも式場キャンセルや俺の都合とか
いろいろあって式と旅行はやろうと決めたんです。でも相手がいなきゃ
出来ないって訳で・・・春姫にお願いしたんです。」
「春姫ちゃん・・・あなたはそれでいいの?」
それは藤田さんが私の陸に対する気持ちを知っているからこその言葉だった。
私は黙って頷いた。

「でも・・・印刷物とか出来上がってるので・・・」
いかまら刷り直しは正直厳しすぎる。
「大丈夫です。春姫には百恵として出てもらうので・・・・」
「ええ?!そ・・そんな・・・だってそうなったら春姫ちゃんの
親族とか…どうするの?その辺は了解してるの?」

だが陸はとても落ち着いた表情でしかも笑顔で返した。
「はい。式の費用の半分を百恵の両親からいただいていますので
春姫の方の招待客は全て百恵の友達のふりをしてもらいます。
ご祝儀も要りません。要は、俺の問題なので・・・・上司とかに
ばれなきゃ・・・って感じなんで」
陸の言い方に藤田さんの眉間に皺が寄る。
「自分の損得だけで決めたのかしら?そんな嘘の芝居をして
あなたは幸せ?・・・・」
きっと藤田さんは陸が私の事を好きではないと感じたのかもしれない。
「幸せか?って聞かれたらハイと即答できません。でもドタキャンされた
辛い気持ちを同じ経験をもつ春姫だからこそ快く引き受けてくれたんです。
それに1週間だけなので・・・」

陸の言葉に藤田さんはハッとし顔で私を見た。
同じ経験を持つ私を誰よりも知っているのは私の担当者でもあった
藤田さんだからだ。
「私は、お客さんの考えを重視しなきゃいけない立場なので
 こんなことは言いたくありません。なので春姫ちゃんの
お友達として言わせてもらうわね。」
「はい」
私は真剣な顔の藤田さんに視線を向けた。
「私の大事な春姫ちゃんを傷つける様な事だけはしないでね。
あなたにとっては単なる百恵さんの身代わりとしか思ってないかもしれないけど
そんな簡単なものじゃないの。もし彼女を泣かせる様事をしたら
私が許さない。そういう思いで私はあなた達の担当をさせていただきます。」
藤田さんは深く頭を下げた。
「藤田さん・・・・」
藤田さんは私に視線を合わすと少しさびしそうな表情で私を見た。
「春姫ちゃんには幸せになってもらいたいから・・・・」
私は深々と頭を下げた。
「藤田さんご迷惑おかけしますがよろしくお願いします」
陸は藤田さんの顔を見ると
「よろしくお願いします」
と言うと頭を深々と下げた。

その時の陸の表情はさっきまでとは打って変わって
とても真剣な表情だった。







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