婚恋
初デート?
式場を出ると一気に疲れが出た。
自分の欲だけで引き受けたが結婚式ってすごく大変だと
藤田さんとの打ち合わせで痛感した。
前にも一度同じ様な経験をしているが、あの時は違った。
自分であーしたいこうしたいっていろいろ考えて
藤田さんと協力して結婚式を作りあげた・・・全てパーになったけど・・
でも今回はもうほとんど形が決まっている。
考えたのは私ではなく百恵さんだ。
百恵さんのアイデアを取り入れた式だ・・・・
決められた事をやるのは決して楽しいもんではないと思った。
ドレスに関してはたまたま百恵さんとサイズが同じだったから
百恵さんの着る予定だったドレスを着る。
これも自分の意見が全く反映されないから面白くない。
でも仕方がない・・・これはお芝居なのだから。
まるで女優にでもなった気分だ。
重い足取りのまま駐車場に着いた。
「春姫ってこれから店?」
車のドアを開けながら聞かれる。
「打ち合わせがいつまでかかるかわからないから
今日は休みにしてもらったけど・・・・」
すると陸は車のエンジンをかけながら「早く乗って」とせかしてきた。
「陸こそ・・・用事があるなら私はここから歩いて帰れるし・・・」
「いいから早く乗れって・・」
いつもそうだ・・・陸って内容も言わずにあーしろ、こうしろって言うんだよね。
でも本音を言えば少しでも一緒にいたいと思ってしまう自分がいる。
でも素直になれないから
ついつい私もぶっきら棒な言い方をしてしまう。
もっと素直だったら少しは違っていたのかなって思う。
車の助手席に乗り、シートベルトをすると
陸はゆっくりと車を発進させた。
車から流れる曲はflybyだ。
私たちが知り合うきっかけとなったバンドだ。
あまりラブソングを作らなかったバンドだったが
最近は少しずつラブソングを発表している。
陸との話題はそんなラブソングが増えたflybyの事だ。
「ねえ・・・この「そのドアを叩いたら」って曲・・flybyには珍しい
ラブソングだよね」
陸の顔を見ず窓越しに移る見慣れた景色を見ながら話しかけた。
「・・そうだね。でも俺はこの曲好きだよ。相手の事を一途に思っている
んだけど時々空回りする・・そんな時は気付かせて・・教えてほしいって・・・
達らしく遠まわしに言ってるんだよな。・・俺・・達の気持ちわかるよ。」
しみじみと言う陸の言葉は誰の事を思って言っているのだろう。
それは私ではないのだと思った。
「でも・・女は言ってくれないとわからないのよ。言わなくてもわかるのだろう?
は男のエゴよ。女は男からの言葉を待つ・・・生き物なの。この曲私も好きだけど
女心をわかっちゃいない。だから・・・教えてって言ってんだろうけどね。」
音楽の話になると真面目に会話できるんだけど・・・
それ以外だとなかなか言えな・・・・くなった。
「お前もそうなの?言わないとわからない?」
「そりゃーそうよ。言葉は必要よ。まどろっこしい言い方じゃなく。
ストレートに・・・誰が聞いてもわかる様な言葉が欲しいもの・・・」
陸はそれに対して何も言わずただ黙って前を向いて運転していた。
返事のない陸に、私はやっぱり陸はよくわからないと思った。
私の意見を聞いたところで元カノは帰って来ないんだから・・・
話に夢中になっていて気がつかなかったが
車は店や自宅とは別方向を走っていた。
「ねえ・・・何処行くの?私の店も家も逆方向よ」
「海・・・」
「え?」
「お前をよく知るためにデートすんの。」
知るためって・・・私たちの付き合いは無駄に長く
ある程度はお互いの事知っているんじゃ・・・・と思ったが
それを言うのはやめた。
デートなんて紺野さんと別れて以来だ。
どれだけ寂しいんだ・・私は・・・
久々のデートに胸が高まるが顔に出内容必死に堪えた。