婚恋

2人の記録?

松田君からの告白から数日が経った。
結婚式の細かな準備は陸がほぼやってくれたらしい。
私は自分の式に使うブーケやらアレンジメントに集中した。
だから陸とは会ってない。
もちろん松田君と藤堂君が会いに来た事も知らないだろ。
いや・・・もしかすると藤堂君あたりが陸に話をしたかもしれない
でも・・・陸からはメールと電話でのやり取りで
会話と言っても事務的な感じだ。
本当にこんな2人が結婚するの?と思ってしまう。

実際、お芝居みたいなもんなんだろうけどね。
そう思いながら式場へと向った。
披露宴会場の下見をしたかったからだ。
・・といっても今日は仕事。
藤田さんにお願いしたら今日は平日で空いてると教えてくれたのだ。

会場に入ると藤田さんが待っていた。
「春姫ちゃん!」
「藤田さん。今日はすみません無理言って・・・」
「いいのよ~。それよりも何だか大変ね。自分の結婚式なのに
 花の飾り付けやら自分のブーケも作らなきゃだしね・・・」
事情を知っているだけに藤田さんも複雑な心境なんだろう。
苦笑いしつつ、バッグの中からデジカメを取り出した。
「今日は最終確認みたいなものです。ここの飾り付けは
 店である程度土台を作っておいてここでは手直し程度に
すまそうと思ってます。じゃないと間に合いませんもんね。
前日は徹夜覚悟かも・・・」
藤田さんは両手を自分の頬にあて、同情するかのように
そんな~~といって深く溜息をついた。
「そりゃ~~今回は非常事態ってことだけど、でも~~式の前日ぐらい
ちゃんと睡眠とって・・・一応花嫁さんよ。お化粧ののりだって
違うのよ。今はブライダルエステなんて当たり前の時代でみんなやってるのに
春姫ちゃんは何にもなしでいきなりの挙式と披露宴。それなのに・・・」
藤田さんの気持ちは痛いほどわかる。
でも私は本当の花嫁じゃない。
陸と一緒にいられるのはうれしいけど
あくまで私は百恵さんのかわりなの。
「藤田さん心配してくれてありがとう。でも私、こう見えても
肌は丈夫だし、徹夜も平気なんだから・・・」
私はガッツポーズをみせた。
でも藤田さんの顔は不安そうなままだった。

店に戻ると陸が店に来ていた。
何だか久しぶりな感じがした。
たった3日ほどなんだけど・・・

「どうしたの?何かあった?」
「何かなきゃ会っちゃいけないのかな?」
「・・・別にそんなんじゃないけど・・・」
急に来たらドキドキしちゃうじゃない!・・・とは言えないから
視線だけを逸らした。
「ちょっと見てもらいたいものがあってさ・・・」
そう言って陸は1枚のディスクを差し出した。
そして奥にいる母に2階を少し貸してほしいと言った。

2階と言われて松田君との事を思い出し
唇を軽く噛んだ。
・・・まさか・・・松田君とのこと・・・バレた?
でも階段を上がる陸の顔は普通に見えた。

部屋に入ると陸はDVDプレーヤーの電源をいれた。
「それ貸して」
手に持ってるDVDを指さした。
DVDを陸に渡すとそれをセットして私の隣に座った。
私も続いて座った。
「何見るの?」
「ん?披露宴の時に使う二人の記録?」
するといきなり私の生まれた頃の写真が写った。
「え?!何これ・・・これって私よね・・・」
確認しようとすると今度は男の赤ちゃんの写真が写った。
「これは・・・俺」
記録って・・・そういうことなのね・・・
でもいつの間にこんな・・・
私が驚くのは想定内だったらしく
陸は私の母から写真を借りたと言った。
しばらくすると幼稚園の入園式の写真が出てきた。
「この頃の春姫を知らないから、新鮮だった。それにかわいいしな」
小さい頃の自分なのに陸にかわいいと言われて
心臓がバクバクする。
次に目に入ったのは陸の入園式の写真だ。
冗談抜きでかわいい。目がぱっちりして
紺色のスモックがやたら大きく見えた。
「陸もかわいいよ」
きっと陸の子供もこんなかわいい子になるんだろうと勝手に妄想
してしまう。
「だろ?きっと俺の子供もこんな感じで絶対かわいいぞ」
まるで私が考えていた事を当てられたようでかなり焦った。
「どこからくるのよ。その自信は・・・」
陸は何も答えなかったが、なんだか嬉しそうに見えた。
それから小学校、中学とお互いの写真が公開された。

そして私たちが出会うことになる高校時代に・・・・
今でも鮮明に憶えてる。
陸との出会いは大好きなバンドflybyがきっかけだった。
意気投合した私たちはいつしかバンドを組むようになった。
写真のほとんどが4人でのライブの様子や練習の時に
ふざけて撮った写真だった。
「この頃・・・本当に陸ってもてたよね。私なんか恋愛処理班なんて
名前までつけられた・・・大変だったんだから」
「ごめん。・・・」
「別にいいよ。あの時は本当に悪いなんて思ってなかったの知ってるしね」
陸は苦笑いをしながら画面を見つめていた。
それから別々の学校に進み、会うのは練習とライブの時のみ
次第に写真の枚数が激減する。
会ったとしても似たような写真ばかりでメリハリに欠ける。

「写真・・・ないね」
「ないって・・・」
「恋人らしい写真が1枚もない。…ないんだよ。」
急に力説入っちゃって驚いていると
「だから・・・行くよ」
陸はDVDの電源を切ると立ち上がった。
「な・・なに?行くってどこへよ」
「いいから・・・時間がないから早く行くよ」
手を掴まれて部屋を出ると
陸は母に私を借りると言った。
母も何か知っている様だった。
しかも
「後3日で式だから今日明日は仕事休みなさい。明後日はブーケや
 アレンジが多いから無理だけど・・・」
「でも・・・」
母は私ではなく陸の方をみて、後はよろしくねと言った。
一体何をするつもりなんだろう・・・
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