婚恋

手紙

偽の彼女とか・・・お芝居とか
何を言ってるのか訳がわからなかった。

私の驚きに陸は頭を抱えながら深くため息をついた。
頭を抱えたいのは私の方だ
そう突っ込みたいがそういう気にもなれなかった。

だって今までの事は全て嘘だったってことでしょ。
私がどんな思いで百恵さんの代役を引き受けたのか
どれだけ陸のために悩み泣いたのか

そう思うと沸々と怒りが込み上げてきた
どんな理由にせよ人を騙す様な行為が私には許せなった。

「帰る」
「え?」
立ちあがり帰ろうとする。だが、からめられた指は
そうそう離れず、離してよと言いながら手をブンブン振るが
男の人の力には到底かなわなかった。
「どうして・・・どうして・・そんな卑怯な真似するのよ。
何で堂々とぶつかってくれなかったのよ!」
陸を睨みつける。
「じゃあ!ストレートに好きだと言ったらお前はイエスと言ってくれたか?」
「・・・・」
正直それには答えられなかった。
この人を好きだと自覚したのは
陸が結婚すると聞いてからだったからだ。

すると陸は胸ポケットから封筒を取り出しそれを私に差し出した。
「な・・なによ」
「これ…百恵から預かってた。もしこうなった場合には渡すようにって
言われてたからな・・・」

下唇を噛みながらその手紙を奪う様に取った。
「手…離してくれないと読めないんだけど・・・」
そういうと陸はパッとその手を離した。

それから陸はソファーから立ちあがると私と距離を取った。

ピンクのかわいらしい封筒が百恵さんらしいと思った。
封筒を開けるとそこには・・・

「春姫さんへ・・・

 今回、この結婚式の計画を立てたのは私なんです。
 
陸君との出会いは、合コンだったの。
お互い出たくない者同士で意気投合してね、いろいろな話を
しているうちに陸君には何年も想い続けてる女性がいる事を知ったの。
それが春姫さん、あなただった。
そして私にもずっとずっと好きで好きでたまらない男性がいたの。
その人には2回告白して2回も振られたんだけどね・・・
お互い諦めきれない相手がいる事を知った時、ある事を思いついたの。
それが偽の恋人。
最初は恋人のふりをして相手を嫉妬させて何とか振り向かせればって
軽い気持ちだったのだけれど・・・そう簡単にはいかなかった。
お互いにね。

私が初めて春姫さんに会った時、この人は陸君の事が好きだって
すぐにわかったわ。
陸君も私の好きな人を見た時同じ様に思ったらしいの。
自分ではわからないかもしれないけど他人にはわかるんもんなんだよね。
その時に思ったの。
なんで運命の相手はこんなに近くにいるのになんでそれに
気がついてくれないんだろう。
もどかしかった。
だから見せつけるような態度を取ってわざと煽ったりもした。
春姫さん顔にでやすいから私に対して敵意を見せていたのは
手に取るようにわかったわ。
でもそこどまりだった。
どう見ても2人は運命の相手なのに、このままだと運命の相手だと
気付かないまま終わってしまうのではないかと思ったのね。
春姫さんの陸を思う気持ちを気付かせるには
パンチのある事しないとわからないんじゃないかってそう思って
この計画を立てました。

もちろん陸君は春姫さんに嘘をつく形を取るのだから
戸惑いがあったと思います。
でも私から見たらあなたたち二人はどう見ても運命の人
それは私や他の人たちも同じ思いだったと思うの。
だからみんなが協力してくれた。
あなたのご両親、陸君のご両親、そして藤田さんに、松田君、藤堂君
みんながあなた達二人の幸せを思って協力したの。

もちろん騙した事はよくない事です。
そこは謝ります。

私も陸君のお陰でずっと片想いをしていた人と思いが通じ
結婚が決まりました。

だから
どうか彼を責めないでください。
そして本当の幸せが何かよく考えてください。
 
                 百恵      」


みんなが今回の事を知ってたんだ。

だから・・・
今思えば納得できる部分が多々あった。
偽の花嫁なのに父や母の涙や
藤田さんからの言葉や贈り物・・・

そして知らなかったのは私だけ・・・

手紙を封筒に入れると視線を陸に向ける。
窓から外を見ている陸の表情はどことなく不安に見えた・・・ 
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