婚恋

私の思いは・・・

私はゆっくりと立ち上がり陸の方へと歩み寄る。
私に気付くと陸の表情はより硬くなった。

この人も私の事でずっと悩んでいたんだ。
陸が私の事をずっと好きだったなんて・・・・
「ぜんぜん気がつかなかったよ・・・」
「え?」
少し強張った顔に緊張がプラスされ陸の声が上ずった様に聞こえた。
「・・・・好きだったなんて・・・気付かなかった」
「・・・うん」
「いつから・・・思ってくれてたの?」
こんな上から目線でこんな質問するなんてって思うんだけど
聞かずにはいられなかった。
陸は窓にもたれながら顔を上げ少し考えている様だった。
しばらくすると・・・

「・・・・正直いつっていう正確な時期はわからない。友達の
期間が長かったしね。でも・・・今思えば初めて喋った時には
春姫のこと気にはなってたのかもしれない。憶えてる?俺達の初めて
交わした会話」
陸との出会いは高校1年の時だった。

「憶えてるわよ。陸の持ってたflybyのCDみて凄く興奮したもん」
「だろ?まだflybyがデビューしたばかりで知ってる人なんて
ほとんどいなかった。だから春姫のうれしそうな表情をみて
ドキッとしたし、一緒に何かしたいって・・・思ったのって
今思えばもう恋をしたのと同じだったんじゃないのかなって・・・」

懐かしそうに話す陸の顔が夕日に照らされドキッとしてしまう。
今の言い方だととても綺麗な思い出にきこえる。
でも実際はそうじゃなかった・・・よね。

「でも実際は、告白されたら拒まずの最低男だったわよね。
 私なんか恋愛処理班なんて変な名前つけられちゃうし。
 全然説得力無いよ」
陸は顔を手で覆うとそのままずずずーっとしゃがみ込んだ。
「あー!それマジ勘弁して。俺の黒歴史だから・・・」

こんな大がかりなお芝居うったんだから少しは反省してもらわないとって
悪戯心に火がついた私は同じ様に陸の隣にしゃがみ耳元で囁いた。

「ダブルブッキングなんて日常茶飯事だったわよね~~
何度も何度も呼び出されちゃ~説明して、毎回毎回女の子に同じ事を
聞かれたな~『あなたは陸の彼女なんですか?』ってね。その度に
違いますって答えてた。そのうち面倒になって、言われる前に自分から
彼女じゃありませんって念押ししてから話した事・・・なつかしいな~
そんな陸があの時は大嫌いだった・・・・」

その言葉に手で覆ってた顔を上げ私を見つめる。
それは酷く悲しげだった。弁解出来ないと言う感じでもあった。
私は言葉を続けた
「でもね・・・そんな陸だから心のどこかで安心していたの。
特定の彼女を作らない。特別な人が陸にいない。陸は誰のものでもないって
・・・・だからね、百恵さんを初めて彼女として私に紹介した時
何だか凄くショックだった。陸の事好きじゃないのに何でこんなに
心が乱れるの?別に陸と私は友達なんだから彼女が出来たって別に
どうでもいいのにって思うのに、よくわからないけど悔しくって
腹が立って・・・・でも・・・それでも私は心の奥底に眠ってる
陸への思いに気がつかなかった。」
「春姫?」
「結婚式の招待状が届いた時にね・・・・やっとその思いに気がついたの。
 陸が他の人の物になるってわかった時に、今まで気がつかなかった
 本当の・・・本当の思いに気がついて・・・でも遅すぎた。
 だから招待状をもらって、なんて返事を書けばいいのかって
 凄く悩んだ。好きだって気付いた時には人のものになってたのよ。
 それなのに・・・今頃自分の気持ちに気付き、今度はブーケの依頼が来たり・・・
 正直神様を恨んだわ。そして自分自信を恨んだわよ。」

話をしているうちに視界がぼやけてきた・・・・
「春姫・・・」
陸の手が私を抱き寄せる。
「・・・そんな時、百恵さんとの結婚がだめになったから代役を
やってほしいと頼まれた。陸の心の中に百恵さんがいてもいい。
それでもいいから少しでも陸と一緒にいたかった。
短い時間でも、陸のお嫁さんになれるならどんな理由でもいいと思ったの。
でも・・・一緒に準備を進めていくうちにだんだん欲張りになって
もっといたいって・・もっと一緒にいたいって気持ちが大きくなったの。
でも陸の中には百恵さんがいる。私は百恵さんのかわりなんだって
何度も自分に言い聞かせてんだけど思えば思うほど苦しくて・・・
それなのに陸は私の気も知らないで
キスしてくるし、優しくするし・・・・」

「ごめん・・・春姫・・・ごめんな・・・でも俺
 今めちゃくちゃうれしい」
陸の腕に力が入る。
そして陸の顔がとても近くなった。
「陸・・・」
陸は私の手を取るとその指を自分の指に絡ませる。
「嘘をついたのは謝る。本当にごめん・・・・だけど
もう・・・この手はもう離さない。やっと思いが通じ合ったんだ。
誰が離すもんか。」
「陸・・・」
「俺ともう一度本物の恋をしてくれますか?」
「え?」
「俺のお嫁さん役ではなくて・・・・本当のお嫁さんになって
 これから一緒に本物の嘘偽りのない恋をしてくれませんか?」

そっか・・・私たち今から始まるんだ・・・順番めちゃくちゃじゃない。
そう思ったら涙と一緒に笑ってしまった。
「今、そこ笑うとこじゃないぞ」
そういう陸も笑っていた。
「陸のお嫁さんにしてください。そしてたくさん本物の恋をしよう」
二人の距離が縮まって今にもキスしそうなそんな距離だった。

だがその距離が急に開いた。
え?何?そう思って陸の顔を見ると
「あああ!ダメだ。これ以上はダメ!」
いきなり立ち上がって陸は私の腕を掴んだ。
「え?ちょ・・ちょっとどうしたの?」
陸は唇を噛むと
「ここでキスしたら・・・歯止めが利かなくなる!行くよ!」
「はい?」
「だから・・・行くよ!」
「どこへ?」
「秘密」
陸は口角を上げた。
だが私はまだドレスを着たままだった。
「ちょっと!私まだ着替えてないんだけど!」
だが私の声は陸には届いていないようで
私は陸に引っ張られるように部屋を出た。
 
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