婚恋

もう一つのサプライズ 1

着替えもせずに車に乗せられた私。
正直何が何だか訳がわからない。
行き先も言わないし、大体着替えさせてもくれないって
どういう事よ!
しかも後部座席には私の荷物がどっさり。一体いつ積み込んだのか・・・
「ねえ!ちゃんと説明してよ。この格好はずかしい~~」
だが陸は前を向いたまま
「この格好で運転してる俺も十分恥ずかしい!」
いやいや・・・私よりはましでしょ~~

車は高速道路に入った。
「ねえ!だから~~行き先くらい教えてよ。高速道路だよね。
 トイレ行きたくなったらどうするの。この格好でサービスエリアとか
ぜーったい無理!」
「そんなに思ったほど遠くないから安心しろ。」
それだけ言うと陸は聞いていたラジオを消した。
そしてボイスレコーダーを取り出し再生を押した。

そこから流れたのは・・・
『春姫!ご結婚おめでとうございます!ドレス素敵だったよ。
倒れた時はマジびっくりしたよね~。』
それは式に来ていた友達の声だった。
『春姫が倒れた時、旦那さんが春姫をお姫様だっこしてチャペルを
出る姿、あれ最高だったよ。私も結婚したくなっちゃった』
「え?そうだったの?」
陸を見ると顔を赤らめたまま無言だった。
それから友人からのたくさんのメッセージが続いた。

披露宴に参加できなかった私のために松田君たちが
みんなからメッセージをもらってきていたのだ。
『春姫ちゃん。うちのバカ息子のこと頼むな。いや~~
 うれしいな~~。おー!内田さんもほら一言・・・』
陸のお父さんからのメッセージに陸は運転しながら
あのくそ親父が・・と恥ずかしそうにつぶやいた。
続いて私の父から
『春姫!バージンロード1回で済んでよかったな。
 大変だったんだぞ。お前にばれないようにするのはさ・・・
 でも陸君はいい男だ。幸せになれよ!』
「だいぶ出来上がってたみたいね」
ボソッと言う私に陸は笑っていた。
次のメッセージは母からだった。
 『まさか倒れるとは思わなかったわ~。でもいいもの見せて
 もらえたし私は満足よ。陸君との思いがかなってよかったわね。
 二人の2ショット見たわよ。今度は本当に意味での
 思い出をこれからたくさん作るのよ。あっ!そうそう
 あんたの荷物明日には新居に運ぶからもうこっちには
 帰ってこないでね。あと1週間は休んでいいから陸君と
 ゆっくりしておいで』
「ええええ!どういうこと?ねえ?陸・・・私って」
陸は相変わらず前を向いたまま表情一つ変えず
「結婚したんだから一緒に住むんだろ?1週間の休みは
新婚旅行に決まってんじゃん」
寝耳に水と言うのはこういう事なのか・・・
何も知らないかった。
引っ越しするってこともだし、陸との新居だって知らない。
もちろん今から行く場所もだし、それが新婚旅行だと言う事も
知らなかった訳で・・・
でも・・新婚旅行にいくのに何でドレスを着たままなのかが
もっとわからなかった。
そして最後のメッセージは藤田さんだった。

「春ちゃん。今まで黙っていてごめんね。でもやっと気持ちが
 通じあえて私もうれしいわ。陸君と百恵さんから相談を受けた後
 あなたから陸君の事が好きだと聞き、何度本当の事を言おうと
 思ったか・・でも二人が運命の相手だってわかった以上
 あなたにはどうしても本当の幸せを掴んでほしかったの。
 こんなにも春ちゃんを思ってくれる男性はいないわよ。
 時間かかっちゃったけど・・・・本当におめでとう。」
 
目頭が熱くなった。
ここにメッセージをくれたみんなのお陰で私たちはこうして
一緒になれる事が出来た。
そう思うと胸が熱くなった。
そしてそのままゆっくりと目を閉じた。
これ以上泣かないために・・・・

「・・・ひ・・・春姫?着いたよ」
軽く肩を揺すられ、目を覚ますと外はすっかり暗くなって
周りを見渡すとそこはまるで森の中だった。
目の前にはコテージがあり入口の前には荷物を積み下ろした陸が
手招きしていた。
私はドレスの裾をぐっと腰のあたりまで引き上げながらコテージの階段を
上がる。
陸が鍵をあけると
「どうぞ~奥様」といって中へ招き入れる。
私もそのノリに会わせ、
お姫様にでもなった気分で、ありがとうと言って中に入った。

そこは木の香りが部屋いっぱいに広がった2階建てのコテージだった。
1階にはキッチン、バス、トイレ、吹き抜けのリビングに和室
2階はベッドルームになってた。
「素敵!」
私の声に陸も満足そうだった。
だが、陸はソファーに座ることなく時計を見ると
私を呼んだ。
「なに?」
返事をする私に陸は行くよと一言いうと玄関へと向かった。
「行くって何処へ?っていうか、もう着替えてもいいよね!」
だが陸はそのままでいいから早く車に乗ってとせかす。
理由を言わない陸に苛立ちを感じながらも私は渋々車に乗り込んだ。

そして車に乗る事3分。
到着したのは小さなチャペルだった 
< 63 / 67 >

この作品をシェア

pagetop