大きな背中の貴方を……
生い茂る緑の木々
市立図書館はクーラーがきいていてよく来る
まぁもとからアタシは本が好きだからってのもあるけど
今は夏休み
アタシは帰宅部だから暇してるけど
皆は中体連とかにむけて3年のサポートで大変そう
だから皆に会わないのはアタシにとってどーでも良い
まぁどっちかっていうとあまり会いたくないけど。
勉強の合間に良い本がないか館内を廻る
さすが学校より全然たくさんある
「あ…」
驚いて声に出してしまった
アタシの目の先にいるのは
今年アタシの通っている学校に新任として雇われた奥山佑真(okuyama yuma)
担当は数学らしいけどそれらしいことは1つもやってたトコロを見たことがない
うちの学校はもう教師の数は足りてる
それでも雇ったのは雑用を押しつけるために雇われたようなモノだ
まぁ不良を注意して殴られ役になったり生徒会の管理やら、色々とめんどくそうなモノばかり
「奥山……」
アタシの存在に気付いたのか奥山はアタシに近づいてきた
「一応先生だから奥山センセイ、な」
ポン、とアタシの上に持っていた本を置いた
「なんの本ですか?」
「ん~?心理学の本
不良達の心を揺さぶるモノは何か調べてんの」
「そんなのクスリかエロいのじゃないの?先生もそうじゃない?」
「俺はそんな欲求不満じゃないから」
と、言って小指をたてる
ばーか
先生には同い年の可愛い彼女がいると聞いたことがある
街で歩いてるのを見た人がいるらしい
「そんなん直ぐに別れちゃいます」
「縁起でもないことを…
今ホントにヤバイんだからな
危機的状況」
「じゃあちゃんと彼女に尽くさないと」
嘘だよ
そんな彼女なら別れてアタシにしなよ
まぁそんなことは言えないから笑ってごまかしてる
「俺、閉館時間までいると思うからなんかあったら言いにきなよ」
「うん」
そういってアタシの方から離れる
センセイと初めて話したのは5月のことだった
梅雨の時期でジメジメしてた
アタシは日直で沢山のプリントとかファイルとか持っていた
通りすがったセンセイが暇だからと5分の4位持ってくれた
ホントにちょっとの会話だけだった
名前は~とかクラスは~とか
まだアタシのことを知らないセンセイ
教室に着いたらじゃあ頑張ってねと言ってフラフラとどこかへ行った
なにを頑張るんだと心の中で質問して
センセイも頑張れと皆に聞こえない声で呟いた
次の日の朝栽培委員なんてモノになっていたアタシはいつもより早く学校へ来て花壇の草取りをしていた
その時に丁度来たセンセイが俺もと言って手伝ってくれた
杉山さん、とアタシを呼んだセンセイ
ちゃんとアタシの名前を覚えていたことに少し驚いた
草取りをしているセンセイの手は意外にもアタシがホントに子供の手って思える位大きな手のひらをしていた
(多分アタシの手が小さいだけかも)
でも、指は普通に細くてでも大切なモノを離さないような手をしていた
その翌日も、その翌日も
センセイを見かける機会がぐんと多くなった気がする
多分アタシが意識してセンセイを探していたからだと、初めて喋ってから3週間経ってやっと気づいた
アタシ、センセイが好きなんだ
別に認めたくないなんてことはなかった
好きになる人にキマリは無いんだから
でも
センセイを好きになったなんて
言えなかった
それは今もそう
こうやって奇跡的にセンセイに会えたなんて、嬉しすぎる
…………
「……もえ…‼」
「ん…ふん~………
…センセイ………何してんの…?」
見上げるとそこにはセンセイがいた
どうやらアタシは寝てしまったらしい
「それ、杉山さんが言う?笑笑」
杉山さん………
さっきもえって言ってくれたのに…
それは気のせい?
「もえって呼んでよ」
「ん?」
「今起こす時にもえって呼んだでしょ?
これからもそうやって呼んでよ」
「そうだっけか」
なんて言って笑ってごまかして
「どーせここに居ると寝ちゃうでしょ
散歩行こう、散歩」
なんて言うんだから
ホント、ズルい
ま、行くけどさ
「行く」
図書館近くの公園を自転車を引きながらアタシはセンセイと歩く
木々が並ぶその影になる道を
やっぱ夏だね、もう5時なのにまだ明るい
なんて考えながらセンセイの横顔をちらりと盗み見しながら歩く
センセイは今、何を考えているのだろう
彼女のことだろうか
どことなしか悩んだ表情を浮かべている
「「はぁ〜……」」
2人の大きなため息が重なり顔を合わせる
クスッと笑いあい
「ため息の数だけシワが増えるって知ってた?」
何を言うかと思えば……
「でもほんのちょっと位はため息って必要かもね」
苦笑いをするセンセイ
「そうだよ、すっごい必要」
だってそうじゃない?
悪口はいってはいけない、なんて
そんなの無理だし
悩みを言いすぎると友達からは自己中だと言われるし……
「センセイは彼女のことで悩んでたの?」
「いや……今日の晩ご飯は何しようかなって考えてた」
「作れるの⁇」
「人並みにはね」
「そんなんで悩んでたの?笑」
「どれだけ安くどれだけ美味しくできるかが問題だからね」
そんな問題で悩めるなんて……
「幸せなんだね…」
「杉山さんは?」
だからもえって言ってよ
しつこいと思われるから心の中にしまう
「そんなのセンセイに言ってもわかんないよ」
センセイは黙ってアタシを見る
やば、怒ったかな
「そうかもね」
「へ?」
「俺、中学生の難しい時期の思考なんてわかんないし」
うーんと腕を組んで
「俺、この職業あってないのかな」
「…え?」
「子どものこと、好きか嫌いかで聞かれたら嫌いな方だし
教えたくても教える時なんか与えてくんないし
俺、実際教え方上手いかわかんないんだよね」
アタシの放った言葉が傷つけてしまったと思えてなんか気が思い
もしかしたらさっきもこんなことを考えていたのだろうか
「そんなの、アタシが審査するよ」
「え?」
「明日、二丁目の古い喫茶店に来てよ」
「あのオンボロの?」
「そう、[リン]に来て。9時に」
「早いな笑
いいよ、明日は暇だし」
「じゃあ、明日9時にリンね、」
りょーかい、と案外普通に約束してくれたセンセイを少し戸惑いながらアタシは見る
ピタリと足を止め
「じゃあ、また明日
絶対、絶対に来てね」
「ちゃんと行くよ
気をつけて帰りなよ」
逆光だったからか、センセイの顔がうまく見えなかった
さぁっ…とさわやかな風が吹くと共に、アタシは自転車にまたがり家に帰った
また…明日も会えるんだ……