レンアイ不適応者
* * *

 無情にも月曜日はあまりに呆気なく訪れた。

「…身体、重すぎる。」

 そう呟いても仕事はあるし、子どもは待っている。子どもに会うのが嫌なわけじゃない。会いたくないのは同期である雅人と、その他職員だけだ。なるべく顔をあわせないようにするために、いつもより30分、出勤時間を早めて学校に向かう。
 しかし、学校には杏梨よりも先に、…人がいた。

「…おはよう、ございます。」
「おーおはよう。あれ、なんだか藤峰さん、元気なくない?」
「別に、なんでもないです。」

 杏梨の苦手としている4歳上の先輩だ。よりによって誰にも会いたくないときにこの人に会ってしまうなんて、タイミングとしてはこの上もないくらいに最悪だ。
(デリカシーのなさ、空気の読めなさは天下一品だもんな…ほんと、最悪。)
 
 急いでポットにお湯をため、コーヒーを淹れ、職員室を後にした。おかげで他の職員とは顔をあわせずに済んだ。もちろん、雅人とも。
(…だめだ、山岸先生にあわせる顔を準備できない…!)

「杏梨先生、おはようございます!」
「おはようございます。トマトの水やりちゃんとやった?」
「やったよ?」
「そっかー偉い偉い!」

 ある意味、教室での教師は第一権力者だ。下手に子どもに気をつかう必要が無い。それに、子どもたちはニコニコ笑っている。元気すぎるその姿が、今日はいつも以上に眩しく見える。
(いいなぁ…面倒な悩みとかなくて。って…私もこんなもんだったんだろうけどさ。)


* * *

 子どもを帰して、職員室に戻る。杏梨の席からは丁度、雅人の席が見える。雅人の背中が、いつものように見え始め、なんとなく気まずさを感じる。雅人の背中に視線を送っては、すぐパソコンの画面に目を戻す。不意に雅人と目が合っても、杏梨の方が逸らす。
(…別に山岸先生が悪いわけじゃないけど、怒ってる!私、怒ってる!)

 これでは完全に〝不適応〟だ。上手に笑えない、さらりと流せればいいのに流せない。
< 10 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop