レンアイ不適応者
* * *

 結局、雅人とは会話をしないままに金曜日の放課後となった。杏梨はといえばため込んだ丸つけと、その内容の評価、そして学校の方の仕事に追われていた。雅人の方を見やると、雅人もまた杏梨同様の仕事に追われているようだった。
 次々と他の職員が帰って行く中で、杏梨と雅人だけが職員室に残った。チクタクと時計の針の音だけが職員室内に響く。杏梨も雅人も口を開かない。気まずさに耐えかねて口を開いたのは杏梨の方だった。

「…怒っているように、見えましたか、私。」
「え?」

 きょとんとした表情を浮かべる雅人に、杏梨の気が抜ける。

「…怒ってるように、したつもり…だったんですけど、あんまり伝わってなかった感じですかね?」
「んー…あ、なんか元気ないなぁとは思っていたけど、怒ってたんだ。」
「…なんか、今はもうよくわかんない感じですけど。…怒ってたのは、…山岸先生にでは、ないんですけど。」
「…打ち上げのこと?」
「嫌じゃなかったですか?」
「まぁ…。」
「あ、違うんです!別に山岸先生とだったから嫌とかじゃないんです!」
「分かってる分かってる。だいじょーぶ。」

 慌ててそう言い付け加えるのも変な話だが、杏梨としては、別に雅人に怒っているわけではないのが本音だ。それに雅人のことが嫌いなわけでもない。

「…そろそろ帰ろうか。結構遅くなっちゃったし。」
「…はい。」

 いつもの金曜日ならば、楽しく話しているはずだった。今週の子どもの面白かった話、愚痴、お互いがお互いに話すためにネタとして用意している話を一斉に披露するのが、杏梨と雅人の、金曜日の夜の過ごし方だった。それなのに、今日はなんだか少し違う。
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