レンアイ不適応者
 職員室の窓を閉め、職員室、事務室の鍵を閉める。その瞬間に廊下の電気を雅人がつけた。二人きりで残ることが多かったからこそ、何も言わなくてもお互いのやりやすいスピードや、やって欲しいことがなんとなく分かるようになってきている。
 雅人が鍵を入れるためのロッカーを開けてくれる。杏梨が鍵を持つことが常であるため、雅人がこうしてロッカーを開けてくれるのだ。

「…ありがとう、ございます。」
「え、何が?」
「いつもこうやってロッカー開けてくれるので。」
「あーだって、藤峰さんが鍵やってくれるし、こうした方が藤峰さんにとって楽かなって。助かってたんなら良かった。」

 へらっと笑うと本当に可愛い人だなぁと杏梨は思う。人当たりが良いし、杏梨にとって重苦しくない程度に気がきく。
(だめだ!なんだか分かんないけど山岸先生のいいところばっかり思い付いてしまう…!いや、別にだめじゃないんだけどさ…。)

「それで、藤峰さんの嫌だったことって、飲み会の二次会?」
「そうです!それです!」

 不意に振られた本題。本当はシリアスな悩みだったけれど、それをしおらしく語るのは自分らしくない。それを自覚している杏梨は意を決して口を開いた。

「俺さ、あんまり覚えてないんだよね。」

 『俺』になった雅人は完全にオフモードだ。

「覚えてないんですか?私の名前で歌ったことも?」
「それは覚えてる。」

 自転車に乗りながら帰路につく。帰り時間が被ると、いつもこうして帰る。話し込むのはコンビニの前。今日も自転車に乗りながらでは終われないくらいに話は長引きそうだった。二人の帰り道の分かれ目であるコンビニの前で足をつく。

「私がアンサーソングを歌ったことは?」
「あー上手いなぁくらいには聞いてたけど、俺その時、お説教タイムに入ってたから。」
「あー…確かにそうですね。その時の隣は教務でしたね。」
「なんかあったの?」

(思い悩んでた自分がアホらしくなってきた…)

 結局色々なことを気にしていたのは杏梨だけだったのだ。薄々こんなことになるような気がしていたにも関わらず、杏梨はなんだかがっかりした。
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