レンアイ不適応者
 言えば言うほど、なんだか虚しい。何でも自分で考えて、自分の力で解決してきたはずなのに上手く出来なかったことが、苦しい。何故なのかを考えれば考えるほど、行き詰まる。

「…やっぱり真面目だよね、藤峰さん。」
「は…?」

 思わず間抜けな声が出た。

「そんなに深く考えてなかったからさ、本当に。」
「…いや、あの、私…。」
「ん?」
「サークルとかに入らなかったから、慣れていないんですよね、そういうノリ…?みたいなものに。」
「いやまぁ俺もそういうの、あんまりなかったけどさ。」
「…すごく意識してるとか思われることを承知で言いますけど。」
「うん。」
「…嫌なんです。私と山岸先生のことなのに他の人が入ってくることも、はやし立てられたりすることも、…関係、崩したくないんです。」

 顔が上げられない。雅人に対してこんなことは、生まれて初めてだった。顔を上げることができないままに、杏梨は口を開く。

「…私、今の関係がすごく好きなんです。何でも話せて、楽だし…。」
「…それは、俺も。」
「ですよね?それに、初任の期間に恋愛とかそういうこと…考えられないっていうか、余計な案件を増やしたくないんです。仕事をちゃんとしたい。」
「俺もそう。」
「そうなんですよ。私がそうだし、山岸先生がそうだってことも私は知ってます。だからこう…モヤモヤしたと…いうか…。まとまらなくてすみません。」
「…ううん。言葉まとまらない藤峰さんは珍しいから、ちょっと貴重だなって。」

 そう言ってへらっと笑う雅人に、心の奥が落ち着く。ただ真っ直ぐに言葉を受け止めてくれることが、今の杏梨には素直に有り難かった。

(…男の人と仲良くするの苦手な私が、ここまで心開いて話せる相手というだけで貴重だっていうのに…
…なくしたくない。今の関係を。)

「…話してくれてありがとう。大体俺も同じ。だから、今度同じようなことになってら嫌だってちゃんと言うようにするよ。」
「山岸先生の立場だと言えないような気もしますけど…。」
「が、頑張る!」
「お気持ちだけで十分ですよ。…私こそ、ありがとうございました。言えてスッキリしました。ほんと、ありがとうございます。」

(言えてよかった。不適応からは少し、脱却できたような気がする。)
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