俺様王子様に振り回されて
あの日。悪夢の日。



幸か不幸か、自営業の蕎麦屋が忙しく、お父さんはあの年、ほとんど帰宅しなかった。


蕎麦屋で寝泊りしてたのだ。



けれど、私達をほったらかしにするのは気が引けるからと、お母さんは毎日きちんと帰宅していた。


夜の10時ごろだったけど。




・・・・・・だから・・・・・・



幸か不幸か、お父さんは未だに何も知らない。




誰も、お父さんに伝えていないから。



いや、そもそも。


伝えられるわけがないんだ。







もしかしたら、兄貴も、私も、司も。



お父さんの子なんかじゃないかもしれないなんて――。


















その、考えたくもない"可能性"が、あると知ったのは、あの悪夢の日だ。






あの日、私と兄貴は家の少し前でばったり会った。


だから、2人で帰宅したんだ。



それぞれの学校生活の、他愛無いことを話しながら。


そのすぐ後に起こる、悪夢を知らずに。







悪夢は、家のドアを開けた瞬間から、始まった。






私と兄貴は、玄関を見て首を傾げた。




なぜか玄関には、男物の革靴とか運動靴とかが3,4人分散乱してたからだ。






「誰か来てる「だからっ!!!菜子(ナコ)はいつ帰ってくんだよっ!!!」



兄貴が呟いた時、被せるように男の声が聞こえた。


大きな、叫ぶような声だったことを、今でも覚えてる。




菜子・・・お母さんの名前だ。



馬鹿な私は、その時、お母さんにお客さんだ、くらいにしか思っていなかった。






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