東京物語


確かあの時もそうだった

あの人が居なくなる前の日

明日は出発が早いから

と発つ時を最後にせずに

その前の夜に逢ったんだった

『ほんと 今までありがとう』

あの人がそう言った時に

本当に最後だと実感した

『こちらこそ』

そう普通を装いながら言うのも
ギリギリの所で

必死に涙を堪えたんだった


それなのに
あの人は


『今日はプレゼントがあるんだ』


と ぎこちない指使いで奏でられたピアノは

私の大好きな曲で…

そんな事するから
私はもう耐えられなかった

途切れ途切れの演奏に
もっと泣けてしまって…

そして
別れの時はあっけなかった

そう

あの時も…
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