繋がる空の下、繋がらない電話
繋がる空の下、繋がらない電話
朝、家を出るだけのことに、勇気が必要な時期がやってくる。
「寒っ……」
それまでの温かい空気の中から、身を切るような冷たさの中に追いやられるのは辛い。冬の朝はキライだ。
「あ、恵利(えり) 傘持って行きなよ。天気予報、雨が降るって」
「はーい」
リビングから聞こえる母の声に、一瞬だけ家の中に戻り、せめて気分だけはあげようと買った可愛いライムグリーンの傘を持つ。そして再び寒い空気の中に下り立つと、私は足早に駈け出した。早くしないと電車の時間になってしまう。
駅までは徒歩十五分。少し田舎だけど、電車が通っているお陰で都心に出るのも楽な私の地元。お陰で仕事を始めてからもこうして長い通勤時間をかけつつも実家から通えている。
「どうせなら、雪が降ればいいのに」
まだ空きのある電車に乗り込んで、一つだけ開いていた席に座り込み窓の外をちらりと眺める。空は灰色の雲に覆われていた。
『空は繋がってるからさ。心配するなって』
そう言った隼也(しゅんや)の声がよみがえる。聞いたときは感動モンだったけど、時が経った今思い返すと、なんだかクサイセリフだと笑ってしまう。
私の彼、伊藤隼也が北海道へ転勤してしまったの四月のことだ。
いつも暖かさを求めるような私は、遠距離なんでできないと駄々をこねた。
心の奥底では、だったら結婚しようと言われるのも期待して。
だけど、隼也が【結婚】の二文字は持ち出す事はなく、私を必死に宥めるために言ったのがその言葉だ。
“繋がっていたって、顔が見えないじゃん”
今ならそう言い返す。
実際に離れている現実の辛さを知った今なら。
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