繋がる空の下、繋がらない電話
三月は楽しかった。別れを惜しんでいる私達は、一回のデートがそれはそれは濃密で。毎回イベントでもしてるんですかってくらいの勢いがあった。
そして始まる遠距離恋愛。
四月は、環境に慣れない彼が一度も会いに来てくれなくて喧嘩した。でもその分、五月の連休で一緒に旅行した。イベントがあると楽しい。熱に浮かされたように過ごした数日間は私に活力を戻してくれた。
そんな風に、最初の半年は頑張れた。
毎日のように電話もしたし、できる限り互いに会いに行って、会ってる間は不在期間を埋めるようにずっと一緒に居た。
まるで悲劇のヒロインにでもなったように、どこか恍惚に浸っていたように思う。
だけど、半年が過ぎた頃、彼は少しずつ変わっていった。
『大事な仕事が任されそうなんだ』
電話で語った声は弾んでいて、私は嬉しくて『頑張って』と応援した。
だけど、深夜まで残業しているのか、電話してもつながらない日が多くなった。
代わりに、朝になって申し訳程度のメールが届く。
【ごめん、夜中だったからかけ直せなかった。急ぎの用件ならメールでくれるか?】
急ぎの用件なんてあるわけない。
声が聞きたいだけだ。存在を感じたいだけ。
……だけど、忙しい彼にそれを望むのはワガママなのかも知れないと思ってしまう。
感情を言葉に乗せるのは難しい。まして入り組んだ感情ならば尚更。
会いたくて会いたくて堪らないの。
でもあなたの迷惑にはなりたくない。
放っておいたら浮気してやるから。
でもあなた以外を好きになんてなれそうにない。
伝えたい言葉にはいつだって相反する感情が付随していて。
それは、メールだけだと片方しか伝わらない。
【会いたい】
昨晩送ったメールには、【ごめん、今は仕事立てこんでて無理】とだけ返事が来た。
「……はあ」
溜息が重い。まるで今日みたいなどんよりした雲みたいなんだもの。