ヘタレぼりゅーしょん
祭りの話を聞いてから、なんだかテンションが上がりきらない。
午後の授業はほとんど爆睡だった。
日本史の笹木の催眠術と、心地よい風にやられて瞼をおろす直前、思いっきり突っ伏して寝てる槙野が目に入った。
あいつも居眠りなんて珍しいな。
授業だけは真面目に受けてる槙野。
なんだかその珍しい寝顔が目に焼き付いて、夢の中にまで現れやがった。
私はあんたを忘れようとしてるんだよ?
槙野は浴衣を着て、私に向かって手を振っている。
私も紺色の浴衣を着て、恥ずかしいながらも小さく手を振り返す。
近づいてくる彼を見ているだけで、どうしようもなく幸せな気分になっていた。
「待った?」
「ううん、今来たとこ…」
「は?お前じゃねーよ」
…
あれ?
私をスイッと通り過ぎ、艶やかなピンクの浴衣を着た美人と手をつなぐ。
「じゃあな、春田」
え?え?
待って、待ってよ!
草履の鼻緒が切れ、前のめりにずっこける。
槙野!
どんなに呼んでも槙野と美人は遠く小さくなる一方で、私は必死に叫ぶ。
槙野! 槙野!
お願い。私のそばにいてよ。
離れていかないで…