ハリネズミの恋
怖いものでも見たと言うように固まっている寧々の表情。

「どうした?」

「――あ…ううん、何でもない」

俺の問いかけに寧々は首を横に振った後、笑った。

その笑顔に、さっきまでの楽しそうな様子はなかった。

どこか苦しくて、そして悲しそうだ。

俺はキョロキョロと首を動かして寧々の名前を呼んだ声の主を探したが、この人の多さじゃ誰がどこにいるのかわからない。

もしかしたら気のせいだったかも知れないし、何かの間違いだったかも知れない。

「おっと、そろそろみんなと合流して振付と立ち位置の最終確認をしないとな」

ポンと手をたたいて、岩田さんが思い出したと言うように言った。

「あー、そうだったそうだった!」

俺はコツンとグーで頭をたたいた。

「早く行こう、出番はまだ先だけど間にあわん」

岩田さんの合図で、俺たちは駆け足で待っている部員たちの元へ向かった。
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