ハリネズミの恋
「そうか」

俺は一言そう返すと、その場から立ち去ろうとした。

「あ、待って」

西脇優奈が俺を呼び止める。

「急いでるから用事はまた今度にして欲しいんだ」

俺はそれだけ言うと、今度こそその場から立ち去った。

思わぬ邪魔が入ったせいで、寧々を見失ってしまった。

たぶん、そんなに行ってはいないと思うが…。

下駄箱で寧々の靴を確認すると、もう履き替えてしまった後だった。

まだ行っていない。

まだ行っていない。

俺は呪文のように心の中で自分に言い聞かせると、スニーカーに履き替えた。

傘を差して校舎から出ると、
「今さらきたって、話すことなんてないわ」

聞き覚えのある声が校門の方から聞こえた。
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