腕枕で眠らせて*eternal season*



「どうしてそんな事をした!?」



荒げられた声を聞いて、私の目から涙が一筋零れていった。


「……!」


それを見た彼がハッと我に返り、慌てて掴んでいた手を離す。


「…すみません…。感情が昂って酷い事を…申し訳ない」


目を伏せ、自分へか私へか嫌悪の表情を浮かべた彼が、それを隠すように片手で顔を覆い背を向けた。


その背中が、私のすべてを否定しているようで、たまらず叫ぶ。


「…だって…だって!!あの女が大嫌いだから!貴方の心をあっさり奪ったあの女が許せないから!だからサンキャッチャーを壊してやったのよ!悪い!?」


想いの丈を全て吐き出して。


「大ッキライ!あんな女!!大ッキライ!大ッキライ!鈴原美織も…あんな女を好きになった貴方も!!」


涙と一緒に、苦しかった全てをぶつけた。


感情を爆発させて、憐れな嗚咽と共に流れる沈黙。


そして、ゆっくりと彼の背中が振り向き

「……玉城さん……」

どうしようもなく悲しそうな表情と声で、私を呼んだ。


「……貴女に、そんな行動を取らせた原因が僕にあるのなら謝ります。貴女の憤懣も全て受け止めさせてもらいます。…けど。

どうか、あの女(ひと)を傷付けないで下さい」


まっすぐに見つめて言われたその台詞に、更に涙が溢れ出た。


「…大ッキライ……あんな女…。なんの苦労もしないで貴方に守られて、私から全部奪っていくなんて…許せない…大嫌い…!」


恥も外聞もなく泣き続ける私に、彼はゆっくりと首を横に振って見せる。


「…彼女は彼女なりに、傷付いて苦しんだ人生を歩んで来ました。サンキャッチャーだけを心の拠り所にして何年も過ごして来たんです。…僕は…そんなあの女(ひと)の心を放っておけない」


……イヤだ。わかりたくない。

それでも私は、私から彼を奪っていくあの女が嫌い、憎いの。


「玉城さん。貴女は僕にとって最も信頼している人のひとりで、僕の店にとって欠かせない存在だと思っています。そんな貴女にこんな感情を抱かせた事を申し訳なく思います。…けど……」


……聞きたくない。その台詞の続きは、聞きたくない。


強く噛みしめ歪んだ私の唇を見て、彼が言いかけた言葉を一回飲み込んで口を開き直した。



「………どうか…もう、美織さんを傷付けないで下さい。それだけです」



とても悲しそうに言って頭を下げた彼は、そのまま私の顔を見ずに事務室から出ていった。




< 105 / 150 >

この作品をシェア

pagetop