腕枕で眠らせて*eternal season*
「どうしてそんな事をした!?」
荒げられた声を聞いて、私の目から涙が一筋零れていった。
「……!」
それを見た彼がハッと我に返り、慌てて掴んでいた手を離す。
「…すみません…。感情が昂って酷い事を…申し訳ない」
目を伏せ、自分へか私へか嫌悪の表情を浮かべた彼が、それを隠すように片手で顔を覆い背を向けた。
その背中が、私のすべてを否定しているようで、たまらず叫ぶ。
「…だって…だって!!あの女が大嫌いだから!貴方の心をあっさり奪ったあの女が許せないから!だからサンキャッチャーを壊してやったのよ!悪い!?」
想いの丈を全て吐き出して。
「大ッキライ!あんな女!!大ッキライ!大ッキライ!鈴原美織も…あんな女を好きになった貴方も!!」
涙と一緒に、苦しかった全てをぶつけた。
感情を爆発させて、憐れな嗚咽と共に流れる沈黙。
そして、ゆっくりと彼の背中が振り向き
「……玉城さん……」
どうしようもなく悲しそうな表情と声で、私を呼んだ。
「……貴女に、そんな行動を取らせた原因が僕にあるのなら謝ります。貴女の憤懣も全て受け止めさせてもらいます。…けど。
どうか、あの女(ひと)を傷付けないで下さい」
まっすぐに見つめて言われたその台詞に、更に涙が溢れ出た。
「…大ッキライ……あんな女…。なんの苦労もしないで貴方に守られて、私から全部奪っていくなんて…許せない…大嫌い…!」
恥も外聞もなく泣き続ける私に、彼はゆっくりと首を横に振って見せる。
「…彼女は彼女なりに、傷付いて苦しんだ人生を歩んで来ました。サンキャッチャーだけを心の拠り所にして何年も過ごして来たんです。…僕は…そんなあの女(ひと)の心を放っておけない」
……イヤだ。わかりたくない。
それでも私は、私から彼を奪っていくあの女が嫌い、憎いの。
「玉城さん。貴女は僕にとって最も信頼している人のひとりで、僕の店にとって欠かせない存在だと思っています。そんな貴女にこんな感情を抱かせた事を申し訳なく思います。…けど……」
……聞きたくない。その台詞の続きは、聞きたくない。
強く噛みしめ歪んだ私の唇を見て、彼が言いかけた言葉を一回飲み込んで口を開き直した。
「………どうか…もう、美織さんを傷付けないで下さい。それだけです」
とても悲しそうに言って頭を下げた彼は、そのまま私の顔を見ずに事務室から出ていった。