腕枕で眠らせて*eternal season*
バチが当たったんだ。自業自得だ。
あの時、叩き付けて割った硝子のように
今は私の心が原型も無いほど砕けている。
その翌日。
いつもより遅れて出勤してきた彼は、いつもと変わりないように「おはようございます、玉城さん」と言って事務室に入ってきた。
…私たちは大人だから。社会人だから。
ここは職場で、仕事をする場所だから。
あんな事があった後でも、普通に過ごさなくてはいけない。
けれど、逃げだしたい。
「玉城さん、あとでレジにある伝票持ってきておいて下さい」
何も無かったように振る舞う貴方の目が見れない。
「ああ、もう用意してあるんですか。さすが玉城さん、ありがとうございます。」
やめて。本当は私に失望しているクセに。
大事な恋人を傷付ける敵だと思ってるクセに。
だって。私はまだ納得出来ない。
あの女が、あの女を愛する貴方が、嫌いなんだもの。
「……お店を…辞めさせて下さい」
それ以外に、答えが見付からなかった。
閉店後の事務室で、俯きながら私がそう告げると彼はしばらく無言になった。
あまりに長い沈黙にそっと視線を戻すと、彼は口元に手を当てたまま複雑な表情を浮かべている。
そして、私と目が合うと
「……すみません。その話は明日にしてもらっていいですか?」
申し訳なさそうにそう言った。
引き留めることも、すんなり承諾することもしなかった彼は、何を思っていたんだろう。
…そうか、もしかしたら。
心の整理が本当は出来ていないのは、彼も同じなのかも知れない。
そうして、翌日。
彼が私に告げた言葉は
「お互い、無かった事には出来ないと思うんです。1度抱いた感情は簡単に消せるものじゃないですし。
……だから、いっしょにここから築き上げませんか?新しい関係を」
あきれるほどに、水嶋紗和己らしい提案だった。