腕枕で眠らせて*eternal season*
早く新しい恋がしたい。
手に入らない男を想うのはもう止めたいのに。
「オーナー、休憩行ってきます」
「あ、いつものお願いします」
この関係が大切すぎて、なかなか止められない。
薬指にマリッジリングの光る手から受け取った小銭を握りしめて、しばし自動販売機の前で立ち尽くしてみた。
…そして、いつもとは違う缶コーヒーを買ってみる。
「休憩終わりました。はい、オーナー」
いつもと変わらず当たり前のように彼にコーヒーを渡した。
「ありがとうございます」
受け取った彼が、いつもと缶の色が違うことに気付いて僅かに目を丸くする。
なんか言うかな。
彼の飲むコーヒーを把握してる私が違うものを買ってきた事に、彼は何を思うんだろう。
けれど、彼は特に何も言わずそのコーヒーを開けるといつもと変わらない様子で飲み始めた。
その行為に、なーんだと落胆したけれど。
閉店後の帰り際。
「…玉城さん、今日、体調悪いですか?」
「へっ?」
「いえ、なんとなく」
突然掛けられた体調を心配する言葉の意味に気付いて、ちょっと泣きたくなった。
ああ、この男は心底私に甘えている。と。
体調でも崩していない限り、私が彼のコーヒーを間違えるなんて有り得ないと思ってるんだ。
きっと無意識に彼は分かっているんだ。
私が水嶋紗和己と云う男を誰より理解して、忠実に振る舞ってくれる事を。
それは日常の当たり前になるほど、彼にとって疑う余地もないほど。
彼の、信頼を通り越した無意識の甘えに
まだ、私の胸は痛む。
「ご心配ありがとうございます。でも生憎健康そのものですよ」
「ならいいんですけど」
早くこの笑顔から離れたい。
私の心を捕らえて離さない優しい鎖を引き千切るような恋がしたい。
そしていつか
「疲れたときは言ってくださいね。僕がフォローしますから」
優し過ぎるその笑顔を、ひっぱたいてやりたいなあ。
【another story(2)】
―end―