腕枕で眠らせて*eternal season*
あたたかい家庭を作る事を夢見ていた紗和己さんが、それを掻き消した私を責めることは一度も無かった。
ただずっと、あれから毎日、私の心と身体を心配して抱きしめてくれるばかりで
私を責めることも…子供の話題に触れることも、無かった。
『美織さん。林檎と葡萄買ってきました。果物なら少しは食べられるかなと思って』
『これ、レモングラスとジンジャーの入浴剤。よく温まるんで今夜お風呂に入れましょう』
『カモミールティー淹れたんでいっしょに飲みましょう。よく眠れますよ』
優しい言葉と共に大きな手が何度も私を撫でてくれる。
優しくて。優しくて。優しくて。
―――私はそれが苦しい。
責めてくれれば良かった。
泣いてくれれば良かった。
貴方があまりにも優しすぎるから。
私は、私を責めることしか出来ない。
優しい貴方の夢を叶えることが出来なかった自分を、責めて、責めて、息が止まるほど責めることしか出来ない。
あんなに幸せそうに未来を語っていたのに。あんなに嬉しそうに子供が好きだと言っていたのに。
紗和己さんだって本当はショックでたまらかったのに。哀しかったのに。悔しかったのに。
彼がそれを私の前で吐き出すことは無かった。
紗和己さんがどれほど私に気を使ってくれているか分かる。
私がこれ以上落ち込まないように必死に元気付けようとしているか。
……自分の哀しみを置き去りにしてまで。
哀しい。私は、それが。とても。
彼の夢を奪ったのに、その哀しさを吐き出させてあげる事すら出来ない自分が情けなくて。
情けなくて。申し分なくて。
「…ごめんなさい……紗和己さん…」
消えてしまいたくなる。