腕枕で眠らせて*eternal season*
10月。
私から笑顔が消えてちょうど1ヶ月が経った、秋の日の朝。
ひと月ぶりに作った笑顔は上手に出来なくて、紗和己さんが驚いた顔をしていた。
「おはよう、紗和己さん」
彼より早く起きて待っていたリビング。
そのテーブルに淹れたてのコーヒーふたつといっしょに置かれた紙切れに、紗和己さんが見たことのない表情を浮かべた。
「………美織さん………?」
―――紗和己さん。
私ね、とても寒いの。
貴方が一生懸命温めてくれるのに、私は寒くて寒くてたまらなくて。
だから。だからね。
もう温めなくていいよ。
このままじゃ、紗和己さんまで冷えてしまうから。
ふと視線を送ったカーテンの向こうは、まだ太陽が昇りきらないせいか薄曇りのせいか、朝陽の明るさが届いていない。
薄暗い部屋で、けれども紗和己さんの顔はハッキリと見えて。
ああ。
こんな表情させたくなかったなあ。
ずっと痛み続けてる胸が、尚も私を締め付けて涙といっしょにぬくもりを零し続けていく。
ヘタクソな笑顔に、不釣り合いに涙がぽとぽとと落ちていった。
―――ゴメンね、紗和己さん。
今まで温めてくれてありがとう。
これからはどうか、自分のぬくもりを大事にして。
冷え続ける私じゃなくて、大切な自分自身を抱きしめてあげて。
テーブルの離婚届を手に取って、笑顔で差し出した。
薄っぺらい紙に、ぽとぽとと涙を落っことしながら明るい声で、告げる。
「紗和己さん。私たち、別れよう」