腕枕で眠らせて*eternal season*



「……今……なんて言いました……?」


紗和己さんがゆっくりと、クッションに座っている私の真横まで歩いてくる。


無言で俯いてしまった私の表情を追い掛けるように、紗和己さんも膝立ちに身を屈めた。


「……冗談ですよね…美織さん…?」


大きな手が離婚届を乱暴に奪い、視界にも入れずにテーブルへ叩きつけるように置く。

腕をつかみ顔を覗き込む紗和己さんの視線から逃れたくて、私は目を固く閉じて首を横に振った。



「…っ!!美織さん!!」



こんな。こんな激しい紗和己さんの声は、聞いた事がない。
こんな。こんな激しくて哀しい色の声は。


哀しませたくなくて、少しでも彼を楽にしてあげたくて。
私は崩れそうになりながら無理矢理笑う。

笑顔で―――彼の幸せを、願う。




「………ごめんなさい………

……私じゃ…紗和己さんの夢…叶えてあげられないから……

……わ…私じゃ…紗和己さんのこと…幸せにしてあげられない…から……」




ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

あんなに幸せをくれた貴方に、私は何も返せなくて。

あんなに愛してくれた貴方の、夢を叶えてあげられなくて。


ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


愛してる。とても。誰よりも。

だからどうか



「……貴方の夢を叶えられるひとと……幸せになって………」




「美織さん!!」




私を強く呼んだ声は、まるで叫び声で。

痛いほど強く腕を掴む大きな手は震えていた。


「…本気で…本気でそんな事を言ってるんだったら…許しませんよ」


苦しげに吐き出された言葉が、痛い。


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