腕枕で眠らせて*eternal season*
「…紗和己さん…!…紗和己さぁん…!」
わあわあと声をあげて泣く私を苦しいほど抱きしめながら、紗和己さんは話し続ける。
「美織さんが体外受精で子供を望むなら、僕もいっしょにその先の未来に夢を描きます。けど、それが貴女を苦しめるなら、僕はまた違う夢を描きます。
いいじゃないですか、夫婦ふたりで幸せに年をとっていく夢を描いたって。
美織さん。僕は貴方といっしょなら何百、何千だって幸せな夢を描いてみせます」
そして泣きじゃくる私の背中をポンポンと優しく叩いて告げた。
「それほどの情熱を、生きる力を、僕にくれているのは、美織さん。他の誰でもない貴女じゃないですか…」
「……紗和、己…さん……」
「朝起きて僕の腕の中に貴女がいること。笑顔で手を振って見送ってくれること。嬉しそうに僕を迎えてくれること。いっしょに笑い合って食事をすること。ぬくもりを分け合って眠ること。
貴女と人生を重ねて毎日を生きていくこと。
その全てが僕にとってかけがえのない幸せで、生きる意味なんですよ」
そう話して私の背中を抱きしめる手は、力強くてとても温かかった。
ああ。
この手はずっとずっと。初めて会ったあの日からずっと。
揺らぎなく私を受けとめて守ってくれている。
あの日から何ひとつ変わらずに。
「…紗和…己、さん……」
涙につまって、途切れ途切れに呼び掛けた私を安心させるように、紗和己さんは優しく語りかけた。
「いない子供の事を考えるより、今日美織さんが笑顔でご飯を食べてくれる事がどれだけ僕にとって幸せか分かりますか?」
そう言って抱きしめていた体を離し、私のぐちゃぐちゃな泣き顔を見据える。
「笑って下さい、美織さん。いっしょに笑顔作るって言ったじゃないですか。僕と美織さんとふたり、夫婦で大切な家族です。そこに笑顔、作りましょう」
そう言って、紗和己さんが笑う。
愛しげに目を細めて。
その瞳はまっすぐに私を映し続けていて、そして
新しい夢を
偽りない幸せを、湛えていた。