腕枕で眠らせて*eternal season*
9月。
一緒に迎える紗和己さんの3度目のバースデーは、まだ夏の名残を感じる爽やかな空の日だった。
予定通り、ふたり早起きをして車で県を幾つか越えた遠方の美術館へ向かう。
「随分遠いね。そんなにまでして行きたい場所なんだ?」
「ええ。絶対ここがいいって決めてたんです」
珍しい。紗和己さんにしては随分と強気だ。
一体そこまでして行く美術館に何があるんだろう。
未だハッキリとは教えてもらえない目的に首を捻る私を乗せて、紗和己さんの運転する車は高速をどんどん進んでいった。
早い時間に出発した甲斐あって、目的地には午前中に着くことが出来た。
なんだか自然の多い場所。
遠くに山が見えて空気も美味しい。
キョロキョロ辺りを見回しながら停まった車から降りると、紗和己さんが「こっちです」と手招きして私を呼ぶ。
素直に彼の後に着いていくと、やがて、美術館と呼ぶにはややこぢんまりとしている建物が見えてきた。
そして、近付くにつれハッキリ目に映りだしたその建物のガラス張りの壁面と看板に、私は自分の胸が踊るように高鳴っていくのが分かった。
「…ここ………ここって……もしかして……」
「硝子美術館、ですよ」
わあ…わあ、うわあ。
すごい。嘘みたい。嬉しい。なんてサプライズ。
想像もしてなかった目的地に顔中を綻ばせて目をキラキラさせる私に、紗和己さんは少しだけ目を細めて頷くと、私の手を引いて中へと入っていった。