腕枕で眠らせて*eternal season*
「いぃだだだだだ!!!いたい!いたい!いたい!いたーーい!!」
「大丈夫ですか!!美織さん!!」
1月。
無事、十月十日を終え予定日を迎えた私は病院のベッドで初めて経験する陣痛に大騒ぎしていた。
この世のものとは思えない痛みに七転八倒する私を、紗和己さんが青ざめた顔で心配している。
それを冷やかに見ているのは付き添いのお母さん。
「美織ってば大げさねえ、まだ子宮口7センチしか開いてないんでしょう?
紗和己さん、大丈夫よ。この子、昔っから痛みに弱いだけだから」
お、お母さんひどーい!!
娘が初産でこんなに苦しんでるっていうのに!
「美織さん!ヒッヒッフーですよ!呼吸法ですよ!せーの、ヒッヒッフー」
「ひっひ…いたーい!!いたたたたた!ヒフー!いたいー!!」
「あらあら、旦那さんの方が上手ねえ。ほら、奥さんも頑張って」
様子を見に来た看護師さんが可笑しそうに私を励ます。
ありがたいけど、それに笑い返す余裕はない。
「ヒフー!いたいー!!助けてー!」
「美織さん!しっかり!」
「初産は長いのよー。そんなに大騒ぎしてたら分娩室に入る前にふたりとも体力尽きちゃうわよ」
恐ろしい事を可笑しそうに告げて出ていった看護師さんの言葉通り、分娩室に入るまでこの後たっぷり2時間かかった私は、無事出産を終えた時にはボロボロに精根尽きていた。
けれど。
「水嶋さん、おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
そう言って看護師さんが生まれたての赤ちゃんを抱かせてくれたときの感動は言葉に出来ないほど胸を熱くした。
腕の中でふわふわと泣き声をあげる小さな存在。
私と溶け合ってしまいそうなその温かさは、どこか紗和己さんに似ていると思った。
そして、子供を抱く私ごと包むようにそっと抱きしめて紗和己さんは呟いた。
「ありがとう」
と。
私の髪を労るように撫でながら告げた紗和己さんは、穏やかな笑顔に静かに涙を零していて。
それは
私が初めて見た、彼の泣き顔だった。