腕枕で眠らせて*eternal season*
生まれた娘には『花海(はなみ)』と名付けた。
大切な人と観る景色は美しい。
その事をこの子にも知って欲しかったから。
この子もいつか私と紗和己さんのように、かけがえのない誰かの隣で目に映る季節や感じる空気を愛でられるような、そんな女の子に育って欲しいと願いを籠めて名を贈った。
初めての子育ては初めての体験だらけで、私は毎日てんてこまい。
驚いて、困って、慌てて。
それは初めてパパになった紗和己さんも同じで、私たちは試行錯誤を楽しみながら“親”になっていく。
「ただいまー…って、美織さん、どうしたんですか?ベソかいて」
「紗和己さ~ん!花ちゃんが、花ちゃんが全然泣き止まないの。どうしよう~!」
「それは大変でしたね。後は僕が抱っこしてますから、美織さんは休んで下さい」
花海はよく泣く子だったけど、紗和己さんが抱っこするとピタリと泣き止んですぐ眠ってしまう事が多かった。
パパの大きな手が心地好かったのか、それとも慌ててばかりのママの抱っこでは落ち着けなかったのか。
ちょっとイジけた私に、紗和己さんは
「花ちゃんは美織さんが大好きなんだと思いますよ。
赤ちゃんは寝てしまうとまた目覚めると云うことが分からないらしいです。
だから大好きな美織さんと離れたくなくて、眠いのを我慢して泣いて頑張って起きてるんですよ、きっと。
寝てもまた目が覚めたらママがいるんだって、花ちゃんが理解出来るようになったら、少しラクになるかもしれませんね。それまでのお付き合いですよ」
と、私の心が一変する素敵な話を聞かせてくれた。
同時に
「そう考えると、すぐに寝られてしまう僕はちょっと寂しいですけどね…」
なんて、ほんのり拗ねて見せたりもして。
紗和己さんの言葉通り、成長した花海は本当にママっ子に育った。
もちろん優しいパパも大好きだけど、ちょっとおませな花海はママの真似をよくしたがる。
そんな花海を喜ばせようと、母娘ペアルックの服を買って着たときには、どういうわけか一番嬉しそうに目を細めてたのは紗和己さんだったけど。