腕枕で眠らせて*eternal season*
―――恋をしてから僕は
どんどんワガママになっていく。
「――それでね、花ちゃんのランドセル見た月ちゃんが『月も欲しい』って言い出してね…――」
夜更けの静かなダイニング。
コーヒーを淹れたテーブルを挟んで向かいに座った美織さんが、楽しそうに今日の娘たちのことを話す。
至福の時間。
仕事から帰り、愛しい娘たちのその日の様子を妻から聞くこの時間はたまらなく幸せで、一日の疲れもあっさり吹き飛んでしまう。
彼女の楽しそうな口調から、花海と光月が無邪気に笑う姿が想像できて、自然と僕の口角も上がってゆく。
やがて、コーヒーカップが空になると同時に今日の報告を終えた美織さんが席を立とうとした。
「さて、そろそろ寝なきゃね」
けど。
「美織さん。まだですよ」
僕はまだ、足りない。
「え?」
「まだ、花ちゃんと月ちゃんの話しか聞いてません。
美織さんは今日、どんな一日を過ごしたんですか?何をして、どんなものを見て、何を感じたんですか?聞かせて下さい」
教えて欲しい。
僕と離れているあいだ、貴女の瞳が何を映しどんな空気を感じたのか。
どんな感情で何色の思考にたゆたっていたのか。
僕は、知りたい。
席を立ちかけた美織さんが照れを隠すように困った顔をして椅子に座り直した。
「もう…。紗和己さん、ちょっと私のこと好き過ぎじゃない?」
何十、何百回目だろう、その台詞に僕は微笑んで頷き返す。
「そうさせてるのは貴女のくせに」