腕枕で眠らせて*eternal season*
そんな風に思う僕の感覚はずれているのだろうか。
出産に限らず、幸せな道を歩み経ていく変化は、愛しい賜物だ。
「うう。最近、お肌のハリが気になるなあ。やっぱりもう若くないよね」
鏡を見ながらそんな事を嘆く彼女に、僕はつい不思議な顔をしてしまう。
「美織さんは十分美しくて可愛らしいじゃないですか。それに年齢を経た美しさって、かけがえの無い価値があると僕は思いますよ」
恋人から妻へ、そして子の母へ。
人生と、年齢と共に変わっていく美しさを嘆く必要など無いのに、と思ってしまう。
例えこの先シワが増えても白髪が増えても、それだけ長い年月を僕と共に過ごした証のようで愛しく思えるのに。
「綺麗ですよ、美織さん」
けれど、素直にそう告げた僕に彼女はちょっとむくれてしまう。
「紗和己さんはいいよね。カッコいいまま渋味だけ増してますますイイ男になってるんだから」
「そうですか?」
美織さんとは違う認識でだけど、僕も自身の歳を感じる事はある。
体力とか、若い頃に比べて確かに不便だと思うこともあるけれど。
でもそれ以上に僕は自分の歩んできた年月が…美織さんと共に生きてきた月日が、誇らしい。
「いいじゃないですか、加齢。いっしょに歳をとりましょう。
まだまだ人生長いですよ。ふたりでゆっくり、歳をとりましょう。
ふふ、僕はすごく楽しみですよ」
そう伝えた僕に、彼女はポカンと呆気に取られたような顔をした。
「…紗和己さん、ポジティブ。アンチエイジングの時代に歳をとる事を推奨するなんて」
「美織さんといっしょの未来を想像するのに、ポジティブ以外有り得ないじゃないですか。
健康でさえあれば、加齢大歓迎ですよ。それだけ長い年月で貴女をもっと知れた事になるんですから」
恋をして年月を重ねて。
きっと僕はまだまだワガママになっていく。
美織さん。
僕は貴女が知りたい。もっと愛したい。
今日よりもっと心を重ねたくて
明日はもっと愛を重ねたい。
美織さん。
僕はまだまだ貴女が足りない。