腕枕で眠らせて*eternal season*
突然振られた私のよろしくは無い批評に、口に入れたばかりの烏龍茶を噴き出しそうになる。
もう、お母さんってば。謙遜は分かるけど、あんまり扱き下ろさないで欲しい。
私の背中にまた一枚熨斗が足された気がする。
「いえ、そんな」
気を使って言い掛けた紗和己さんにフフッと笑って、母は更に言葉を続けた。
「臆病で、泣き虫で……そして繊細で。だからきっと、あんなに優しい硝子飾りが作れるんでしょうね」
「………お母さん……?」
思いもよらなかった言葉に、私はひとつ、まばたきを落とす。
「…美織がね…3つか4つの時にせがまれて『人魚姫』の絵本を買ってあげたことがあるんですよ」
母はとても穏やかな笑顔を浮かべると、紗和己さんの方を向いてゆっくりと喋りだした。
「けどね、思っていた内容と違ってたんでしょうね。読み終わった時にこの子、わんわん泣いちゃって。『人魚姫が可哀想、人魚姫が可哀想』ってずーっと泣き続けてたんですよ」
昔ばなしを語る母に、紗和己さんはじっと耳を傾けている。
「これは作り話だからって言っても泣き止まなくて、あまりに泣き続けるものだから遂には私がお父さんに『なんであんな本買ったんだ』なんて怒られる始末で」
困ったようにクスクスと笑った母の言葉に、私はとっくに覚えてない自分の幼少期が恥ずかしくなって顔を赤らめた。
うう…やめてお母さん。泣き虫なのは自覚してるから。武勇伝重ねなくていいから。
けれど、紗和己さんはわずかに目を細めただけで、変わらずにじっと母の話を聞き入っていた。
「…それでね、」
ふっと、母が静かに目を伏せた。