腕枕で眠らせて*eternal season*
陽が傾き始めた住宅街を、門先に立つ両親に見送られながら紗和己さんと歩いた。
「お疲れさま、紗和己さん。大丈夫?疲れてない?」
「平気ですよ。ご両親と沢山お話しが出来て、とても有意義な1日でした」
西陽に照らされながら、紗和己さんは私の方を見てふわりと笑顔を浮かべた。
それに私も微笑み返し、ふたり揃ってゆうるりと駅までの道を歩く。
「そう言えば美織さん、知ってます?」
突然、思い出したように紗和己さんが言葉を発した。
「人魚姫のお話って、最近では終わり方が改変されたものもあるらしいですよ」
「えっ、そうなの!?」
驚きの情報に思わず目を剥いた。
「僕も読んだことが無いので詳しくは知らないんですが…きっとハッピーエンドになってるんでしょうね」
「へー…」
「物語の改変の是非はともかくとして、人魚姫はそれだけ多くの人に幸せを願われていたのかなって思うと…僕は少し救われた気分になりますね」
そう言って紗和己さんは、隣を歩く私の手をきゅっと握った。
「ねえ、紗和己さん。人魚姫は恋は実らなかったけどもしかしたら不幸じゃなかったのかもね。
だって海の仲間やお姉さんたちに、とっても愛されていたんだもん」
「それに、世界中の少女から幸せを願われて。少なくとも天国の彼女はきっと淋しくはないでしょうね。そう思いたいです」
見つめあったふたり、口角を上げて優しく微笑みあった。
足元に伸びた影が、仲睦まじく手を握り合う。
……もしも将来、娘が出来たときには
人魚姫の絵本を買ってあげよう。
例えその終わり方が悲しくて娘が泣いてしまっても、私は教えてあげよう。
人魚姫は悲しくないのよ。
だって沢山の仲間に、家族に、世界中の女の子に愛されているんだから。
あなたが、パパとママに愛されて幸せなようにね、って。
そんな事を考えながら見上げた空は、明るい西陽が雲に反射してオレンジや紫にキラキラと、キラキラと輝いていた。