腕枕で眠らせて*eternal season*
『性格は優しい人ですよ、忙しい中でもとても家族を大事にしていて。
けど仕事に対しては鬼です。自分にも他人にも一切の妥協を許さない。もちろんそれに伴う結果も出し続けていて、素晴らしい事だと思います。
…うーん、僕もそうありたいと努力してるつもりなんですけどね。父から見たらまだまだヒヨッコなんでしょうね』
語って苦笑いした顔に僅かに見せた情熱。
知らなかった。紗和己さんってそういう姿勢で仕事に臨んでたんだ。
私といる時の彼はいつだって穏やかで。
ベッドで熱く昂る時でさえ、私を最優先する優しさは変わらない。
だから、自分の仕事に対して厳しくあり続け結果を出したいと語った彼の横顔はとても新鮮で。
その凛々しすぎる眼差しに、私は密かに彼に惚れ直したんだった。
―――そっか。やっぱり紗和己さん、お義父さんを尊敬してるんだなあ。
私は芳香なダージリンティーをゆっくり口に流し込みながら、こっそりと上目でお義父さんを見つめた。
うーん、しかし。
この、紗和己さんを更にまろやかに熟成させたような紳士が、仕事では鬼なのか。
…とてもそんな風には見えないけど。
目尻にシワを寄せ、ニコニコと娘達と会話を交わすお義父さんを見てそう思った。
……けど。
私は考えた。もしかしたら紗和己さんも既にそうなのかも、って。
紗和己さんもお義父さんのように、きっと私には…家族には温かい表情しか見せないのかもしれない。
…見たい気もする。彼が仕事の時にしか浮かべないであろう厳しい表情を。
―――でも。
私は視線を上げ、お義父さんに向けるとニコリと微笑んだ。
お義父さんも、そんな私に優しく微笑み返してくれる。
―――いいんだ、私は。
紗和己さんのくれる優しい眼差しだけを知っていれば。
きっと紗和己さんは私に…これから築いていく家族に優しい微笑みを向けるために、仕事ではより厳しく、時に鬼になっていくんだろう。
そうして掴んでいく幸せを与えられることに、私は感謝しよう。
妻として、温かい眼差しを向けられ続ける事を誇りに思おう。
目の前の、幸せそうに妻と娘を眺めているお義父さんを見て、強くそう思った。
私も、何十年経っても紗和己さんにこんな瞳で見つめてもらえるような、そんな家庭を築こう、と。