腕枕で眠らせて*eternal season*
―――
「好きですね。僕、庇護欲が強いと思うんですよ」
そう答えながら近くのパーキングに停めておいた車に乗り込んだ紗和己さんは、その勢いのまま助手席の私にキスをした。
突然の口づけに、キョトンとしてしまう。
「けど一番庇護欲を刺激するのは、美織さん。貴女なんですよ」
あっ、ズルい。急にそんな甘い顔に切り替わるなんて。
「…僕のいない間、何話してたんですか?」
大きな手が今度はしっかりと私の頬をつかんで、ゆるりと深く、唇を重ねる。
「…ふふ、色々聞いちゃった。紗和己さん、ちっちゃい頃犬が怖かったとか、高校生の時バイクの免許取りたくてお義母さんとケンカしちゃったとか」
唇を離し、肩をすくめて笑った私の言葉に、紗和己さんの表情が複雑なものに変わる。
あのね、他にもね。
たくさん教えてもらったよ。
お習字と水泳をずっと習っていたコト。
スポーツは得意なのに何故だか卓球だけは下手なコト。
お友達が多くて、なのに毎年年賀状は全部手書きしてるコト。
思春期に『優しい』自分に悩んでた時期があったコト。
お義母さんの作る茶碗蒸しが好きなコト。
お義父さんが今日着てたカーディガンは、紗和己さんが父の日にプレゼントしたものだってコト。
大好きな貴方のコト、いっぱい聞いちゃった。
でもね、まだ足りない。もっと教えて欲しいの。
「…あまりカッコ悪い話は忘れて下さいよ」
「全然。カッコ悪いところなんかひとつも無かったよ」
今度は私から唇を重ねる。
嬉しそうにそれを受け止めた紗和己さんに、私も目を弓なりに曲げて彼の耳元で囁いた。
「素敵な家庭作ろうね。子供、いっぱい作ろう」
寄せた彼の頬が、赤く染まるのが分かった。
「…もちろんです。…けど、美織さん…ちょっと煽りすぎです…」
幸せと戸惑いを乗せた瞳に私を映して、紗和己さんがもう一度キスをした。
―――早く、貴方と家庭を作りたい。
彼をたくさん知った日に抱いた想いは、新しい愛の種になって私の心に芽吹いた。
唇を重ねながら固く握りあった手が、同じ想いをも重ねてるようで、嬉しかった。
とても。