腕枕で眠らせて*eternal season*
悪いタイミングは重なる。
「ねえ、今度うちへ遊びに来ない?」
「は?毎日来てんじゃん」
「そうじゃなくて…実家の方。お母さんが、お付き合いしてる人がいるなら一度連れてらっしゃいって」
こう言う話を聞いて真っ先に『メンドクセエ』って思っちゃう男は、決して俺だけじゃないだろ。
けど、ここの所…あの公園でのセックス以来、美織はちょっと情緒不安定で。
その時は俺なりに、ちょっとでもコイツを安心させてやりたいと思ったりしたんだ。
でもなあ。
早かった。あの時の俺にそんな無茶は。
“彼女の親に会う”って行為は猛烈に俺に結婚を意識させ、未来を不安にさせた。
遠回しに美織の親に聞かれる将来像。
数年後?俺どうなってるんだ?自分でもよく分からない。
このまま今の会社に居続けて多少は出世とかしてるのか?そしたら美織と結婚?
毎日を美織と過ごして、毎日この会社に通って…変化も刺激もない毎日が俺を待ってるとか?
急に、気分が重くなった。
「…つまんねえなあ…」
オフィス街の景色。
会社のビルの非常階段の踊り場から、色のあせた様な景色を見て煙草をふかした。
「火、貸してくれない?」
突然背後から掛けられた声に驚いて振り向く。
「端柴くんだよね?営業課の。悪いんだぁ、こんな所でサボって」
アッシュブラウンの髪をビル風に靡かせながら俺に笑いかけたのは、経理課の蓮崎公香(れんざき きみか)だった。
「まあ私もサボりに来たんだけど。共犯のよしみで、火、貸してよ」
そう言って細い煙草を持つ公香の指には、仕事中だというのにクッキリとした色のネイルが塗られていて。
俺はやけにそれが印象に残った。