腕枕で眠らせて*eternal season*
せめて、美織を解放してやれば良かったと思う。
けど、こんなコト言えたもんじゃないけど、俺はやっぱりアイツが好きだったんだ。
「美織、愛してるよ」
一緒に過ごしてやれない時間を詫びるように、可愛がっていたつもりだった。
分かってる。それがどんなに軽薄で残酷な事だったかなんて。
けど、このまま曖昧に過ごしていた方が美織は傷付かずに済むと思ったし。
なにより最低な事に、俺は“二人の女に取り合われてる自分”に酔っていたかった。
「ねえ、楷斗。鈴原って誰?」
先に口火を切ってきたのは公香だった。
この曖昧な三角関係は暗黙の了解だと思っていた俺は内心焦った。
「え…同じ部署の同期だけど?」
俺の答えに公香は鬱陶しそうに溜め息を吐く。
お互い、束縛するような関係はダサくて嫌い。
けど、その女が本命で私が遊びだなんて噂がたつのは許せない。
そんな高慢な内容だった。ベッドで裸のまま煙草に火を着けながら言った公香の話は。
「別に、どっちが本命とか考えてねえよ」
適当に濁した俺の返事に公香は
「あんたらしいね。じゃあいい、こっちで勝手にするから」
と言って、煙草の火を強くもみ消した。
美織は不器用な生き方をする女だ。
俺から見たらつまらない事ですぐ悩むし、物事を簡単に流せない。
気も弱い方だし、狡いことや嘘に抵抗がある。
そんな性格の美織なんて、公香のしたたかさの前では無力に等しかっただろう。
『鈴原美織が蓮崎公香の男に横恋慕してる』
そんな噂が俺の耳に届いたのも、あっという間だった。