腕枕で眠らせて*eternal season*
公香は一体どんな手段を使ったのか。
一方的に美織が悪役になっていく噂は、日々社内に広がっていった。
けど。
それでも、美織は黙っていた。
俺を責めることもなく、いつもと変わらない様子で。
……いや、変わってないワケがない。
本当は気付いてたんだ。
段々と美織の表情が沈んでいっていた事に。
抱いた身体が以前とは比べ物にならないくらい痩せた事に。
それでも…美織と公香。
どちらも失いたくない俺は、この事態から目を逸らし続けた。
―――そして、あの日。
肌寒い、雨の夜。
「今夜は友達と呑みに行く」と、公香が予定をドタキャンしてきたせいで突如時間をもて余した俺は、気紛れでアポイントも取らず美織の部屋へと行った。
「美織、起きてる?ビール買ってきたから一緒に呑もうぜ。なんかつまみ作ってよ」
インターフォンも鳴らさず合鍵で勝手にドアを開く。
そうして開いたドアの先に俺が見たのは…
玄関からまっすぐ部屋が見えるワンルームの真ん中で、青い顔をしながら涙を零して錠剤の瓶を握りしめてる美織の姿だった。
「何してんの…お前……」
さすがに、血の気が引いた。
けど、俺の悪い想像と違って美織は
「…眠れないから…薬、飲もうとしただけ…」
と、慌てることもなく静かに涙を拭いた。
その事に刹那ホッとした俺は、部屋に上がり込むと美織の手から薬の瓶を取り上げ、代わりに買ってきたビールを握らせた。
「何?不眠なのお前?薬とか体に良くないんじゃねえの?ほら、ビールにしとけよ。一緒に呑んで嫌なこと忘れろって」
そう言った俺の顔を見上げて、美織はボロボロと涙を溢れさせた。